KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

コレはアレを滅ぼすか?

 1月25日付けの朝日新聞松岡正剛さんが「マガジントリップ」というコーナーで雑誌『季刊・本とコンピュータ』を取り上げている。私はこの雑誌を創刊号から買っているが、今年の冬号はまだだ。どうも季刊雑誌というのは月刊や年刊雑誌に比べて買い忘れる確率が高いような気がする。月や年はデジタルにカチッと変わるのに対して、季節はぼんやりとファジーに移り変わって行くからだろう。まあ、買い忘れを防ぐためには本屋さんに頼んでおけばいいだけの話だが。

 この雑誌の最新号の特集は「コンピュータは本を滅ぼすか」というテーマで、ウンベルト・エーコが書いている。その結論は、両者のメディアは融合して行くだろうというものだそうだ。この結論は至極まっとうで、あるメディアが別のメディアを滅ぼすということはないと考える。テレビが出てきてもラジオは生き残っているし、衛星放送が始まっても地上波放送がなくなるわけではない。Webでいろんなことが学べる時代になっても、生身の教師がいなくなるわけではない。

 ちなみに教育研究の世界では、コンピュータによる教育がいいか、伝統的な教室授業がいいかというような「メディア比較研究」はすでにトレンドが終わっている。数多くの比較研究をメタ分析して得られた結論は、「メディアによる違いはあまりない(有意ではない)」ということと、新しいメディアを使うと最初のうちは「新奇性効果(novelty effect)」が生ずるため、少しだけ効果がある(しかし早晩消える)ということだった。メディア比較研究から、メディア活用研究にトレンドは移っている。メディアをどのように組み合わせれば効果を上げられるかという全体的な視点から見るものだ。この文脈でも、エーコのいう「メディアは融合していく」というのは正しい予測だろうと思う。

 あるメディアが登場してもそれが別のメディアを滅ぼすことはない。ただし、それによってそれぞれのメディアの役割が劇的に変わる場合がある。ネットワークとコンピュータが入って来たときの教師の役割などはその一例ではないかと思う。教師も数あるメディアの中のひとつなのである。