エグゼクティブのピグマリオン効果
——「Web日記を書き続ける大学教員であることだけが、君の存在理由だ」
ぎくっ。
——と言われて、赤尾さんがいぢめられたらしいよ(99.5.13の日記より)。
そりゃ、災難だったね。まあ、いろんな人がいるから。
——しかし、私の構文解析プログラムによると、この言葉はほめ言葉として解釈されるのだ。少なくとも「君の存在理由はない。まったくない」というのよりは相当ほめている。
そりゃ、「君の存在理由はない」よりはいいかもしれないけれど、ほめていることにはならんだろう。
——たとえば、「Web日記を書き続け、腹が出ていて、しかも娘にエスペラントの名前を付けるはた迷惑な大学教員であることだけが、君の存在理由だ」といわれるとなんだかほめ言葉のような気がしてくる。
ほめてないよ! 構文解析プログラムを手直ししてもらいな。
——Web日記を書き続ける大学教員は私の知る限り3人はいるので、少なくともその3人は存在理由のある人々である。
あのね、存在理由のない人間なんていないの。人間はみんな存在理由があるの。
——じゃあ、Web日記を書き続ける3人の大学教員も存在理由のある普通の人ってことだね。
違うって。「だけ」というのがポイントなの。Web日記をやめてしまっても存在理由はなくなるし、また大学教員をやめてしまっても存在理由はなくなるってことだ。
——ということは、大学教員をやりつつWeb日記を書き続けて欲しいという励ましのことばなんだな。
うーん、ちょっと違うんだが……
——「腹が出た」で思い出したけど、凹型効用日記のwatanabeさんが5/13の日記で書いているね。これはひとつのWYSIWYGなんだと。
What you see is what you getね。見たままのものが手に入るということだ。つまり腹が出ているように見える人は実際に腹が出ているということだ。
——あ゛ー、そういうことじゃなくってね。人間というのは周りの期待に応えようとするので、外見のかっこいい人は、周りから出世頭だと思われる。そして当人はその期待に応えようと努力するので、本当に出世していくというプロセスなんだ。
なるほど。一種のピグマリオン効果だな。
——そう。「子どもはほめて育てよう」なんてスローガンがあるね。ほめて期待をかけているということを見せると、子どもはそれに応えようと努力するという話。
しかし、それは危険だな。本心からでなく無理にほめようとしてほめているということは子どもはすぐに見破るからね。本心から思い込んでいないとピグマリオン効果はでないんだよ。もし、無理にほめようとしてほめているのが見抜けないような人間だったら、それはそれでバカだ。
——そうすると、かっこいいエグゼクティブが、周りが自分に期待しているのは自分のかっこよさによるものだということに気づいていないならばハッピーだが、誰かがそれを教えてあげればもはやピグマリオン効果はないことになるね。
ははは。これを読むだけでもう効果はないのだ。結局、この話はアメリカ社会の持つエグゼクティブに関するステレオタイプというのが落としどころではないかと思っている。それから致命的な欠点は、世の中には周りから期待されて努力する人間ばかりじゃないということをカバーできていないことだな。