KogoLab Research & Review

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ウィリアム・グラッサー『グラッサー博士の選択理論』

グラッサー博士の選択理論―幸せな人間関係を築くために

グラッサー博士の選択理論―幸せな人間関係を築くために

同じ著者の『あなたの子どもが学校生活で必ず成功する法』(http://d.hatena.ne.jp/kogo/20021106)で取り上げられている、グラッサー・クオリティ・スクールに興味を引かれたので、グラッサー博士の中心的著書と思われるこの本を読んだ。500ページを越す大部な本だが、明快。

核となる主張をまとめれば:

  • 人間関係の問題が私たちを不幸にしている
  • しかしこれまで使われてきた外的コントロールは問題を解決しない
  • あなたがコントロールできるのはあなたの行為と思考だけである
  • あなたはそれを選択している
  • その選択が相手とのよりよい関係を作るかということを考えて行動すれば、問題は解決に向かう

読めば読むほど、アドラー心理学との類似性を感じるのだが、アドラーのアの字も出てこない。わずかに、アルバート・エリスから影響を受けたと書いてある。そこまでいけばあと少しなのに。『あなたの子どもが……』でも感じたのだが、先行理論の言及がほとんどない。不思議だ。

13章に選択理論の10の原理が次のようにまとめてある。抜粋する。

  • 1. 私たちがコントロールできる行動は唯一自分の行動だけである。
  • 2. 私たちが与えることができるもの、他の人から受け取るものはすべて、情報である。その情報をどう処理するかは、それぞれの選択である。
  • 3. 長期にわたるすべての心理的問題は、人間関係の問題である。
  • 4. 問題のある人間関係は、常に私たちの現在の生活の一部である。
  • 5. 過去に起こった苦痛は私たちの現在に大きく関係しているが、この苦痛な過去に再び戻ることは、今、私たちがする必要のあること、すなわち、重要な現在の人間関係を改善することに、ほとんど、あるいは全く貢献できない。
  • 6. 私たちは、遺伝子に組み込まれた五つの欲求、すなわち、生存、愛と所属、力、自由、そして楽しみの欲求によって駆り立てられている。
  • 7. 私たちは、上質世界に入っているイメージ写真を満足させることによってのみ、こうした欲求を満たすことができる。
  • 8. 私たちが誕生して死を迎えるまでにできることはすべて、行動することである。あらゆる行動は、全行動で、四つの分離できない構成要素、行為、思考、感情、生理反応によって成り立っている。
  • 9. すべての全行動は、動詞、あるいは不定詞動名詞によって表現され、最も認めやすい要素によって呼ばれる。例えば、私は、うつで苦しんでいる、あるいは、落ち込んでいる、ではなく、「私はうつ行動を選んでいる」あるいは「わたしはうつをしている」である。
  • 10. すべての全行動は、選択されたものであるが、私たちが直接コントロールできる要素は行為と思考だけである。しかしながら、自分の感情と生理反応のコントロールは、間接的に、私たちが行為と思考をどのように選択するかによって行っている。

これらを現代アドラー心理学の以下の理論的枠組みと比較すれば、いかに似ているかがわかるだろう。

  • 個人の主体性(上記の1,9に対応)
  • 目的論(5,7)
  • 全体論(8)
  • 対人関係論(3,4)
  • 認知論(2)

グラッサーとアドラーとの関係について、日本語のWebページでは検索できなかったので、英語を調べてみると、http://www.commcure.com/adler.html に

William Glasser's Reality Therapy is firmly grounded in Adlerian psychology. Both theories view behavior as purposeful and goal directed, and advocate a phenomenological perspective. (Nystul, 1995).

とあった。やはりそうなんだ。Nystulの文献は、次の通り。

  • Nystul, M.S. (1995). A problem-solving approach to counseling: integrating Adler's and Glasser's theories. Elementary School Guidance & Counseling, 29(4), 297-302.

ちょっともやもやが晴れた。