KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

田中耕治編著『時代を開いた教師たち』

時代を拓いた教師たち―戦後教育実践からのメッセージ

時代を拓いた教師たち―戦後教育実践からのメッセージ

この本は、無着成恭をはじめとして、戦後の15人の偉大な教育実践を概観している。

もちろんそれぞれのケースが特色を持ち、独自の教育理念を持って実践をしたわけだが、あえて共通する点を見いだせば、何をどのように教えるかという点について、生徒の現実世界から出発しているということだろう。つまり、生徒の生活のリアリティと教えようとしていることをいかにつなげるかというところに気を配っているということだ。そして、それがかえって、学校化されていった社会との乖離を生んだというところに現代の教育問題があるといえるだろう。

それはともかく。

こうした、それぞれに特色のある、信念を持った教育実践を読んでいると、教師と生徒の間で行われる教育という活動が、教師の持つ前提条件によって切り取られるのだということを痛感する。

たとえば、

学習というのは、優劣をこえたところ、「優劣のかなた」にあるのだという点にある。大村は、「わかる、わからないの世界」から「その向こう」へと子どもたちを誘っていかなければならないとする。

という大村はまの信念は、大村の行う教育実践の無条件な前提(公理)であって、その公理と所与条件(学校、教室、生徒、科目、時間、道具など)からすべての定理、つまり教育方法が導き出される。その実践の妥当性は、大村はまの公理に整合するかどうかだけでチェックされるのであって、教育方法や技術だけを取り出して評価できるものではないということだ。

偉大な実践を並べることによって、これを議論するためには、実践の公理=前提条件を明示的に取り上げる必要があるということが見えてくる。