KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

内田樹『寝ながら学べる構造主義』

寝ながら学べる構造主義 (文春新書)

寝ながら学べる構造主義 (文春新書)

自己同一性を確定した主体がまずあって、それが次々と他の人々と関係しつつ「自己実現する」のではありません。ネットワークの中に投げ込まれたものが、そこで「作り出した」意味や価値によって、おのれが誰であるかを回顧的に知る。主体性の起源は、主体の「存在」にではなく、主体の「行動」のうちにある。これが構造主義のいちばん根本にあり、すべての構造主義者に共有されている考え方です。

技芸の伝承に際しては、「師を見るな、師が見ているものを見よ」ということが言われます。弟子が「師を見ている」限り、弟子の視座は「いまの自分」の位置を動きません。「いまの自分」を基準点して、師の技芸を解釈し、模倣することに甘んじるならば、技芸は代が下がるにつれて劣化し、変形する他ないでしょう。

フーコーが指摘したのは、あらゆる知の営みは、それが世界の成り立ちや人間のあり方についての情報を取りまとめて「ストック」しようという欲望によって駆動されている限り、必ず「権力」的に機能するということです。

「実存は本質に先行する」というのはサルトルの有名なことばですが、特定の状況下でどういう決断をしたかによって、その人間が本質的に「何ものであるか」は決定されるということです。

私たちは常識的には、人間が社会構造を作り上げてきたと考えてきました。親子兄弟夫婦の間には「自然な感情」がまずあって、それに基づいて私たちは親族制度を作り上げてきたのだ、と。レヴィ=ストロースはそのような人間中心の発想をきっぱりとしりぞけます。/人間が社会構造を作り出すのではなく、社会構造が人間を作り出すのです。

何かを手に入れたいと思ったら、他人から贈られる他ない。そして、この贈与と返礼の運動を起動させようとしたら、まず自分がそれと同じものを他人に与えることから始めなければならない。それが贈与についての基本ルールです。

分析家は分析が終わると、必ずそのたびに被分析者に治療費を請求しなければならない、というのが精神分析のたいせつなルールです。決して無料で治療してはならないというのは大原則です。ラカンの「短時間セッション」は場合によると握手だけで終わることがありましたが、そのときでもラカンは必ず満額の料金を受領しましたし、料金を支払えなかった被分析者に対しては平手打ちを食わせることをためらいませんでした。「お金を払う」ことは非常に重要な「財貨とサービスのコミュニケーション」である経済活動にも参与することになるからです。