KogoLab Research & Review

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ミラー、ダンカン、ハブル『心理療法・その基礎なるもの』

心理療法・その基礎なるもの―混迷から抜け出すための有効要因

心理療法・その基礎なるもの―混迷から抜け出すための有効要因

  • 作者: スコット・D.ミラー,マーク・A.ハブル,バリー・L.ダンカン,Scott D. Miller,Mark A. Hubble,Barry L. Duncan,曽我昌祺,黒丸尊治,浜田恭子,内田郁,市橋香代,舟木順子
  • 出版社/メーカー: 金剛出版
  • 発売日: 2000/07
  • メディア: 単行本
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ある治療モデルを、データの評価なしで、他から目立たせる方法の一つは、独特な言葉を開発するか、理論と技法について、そのモデルが独占できる話し方を開発することです。独特な言葉を持つことで、その治療モデルに、違いというオーラが吹き込まれ、さらに、開発者によるユニークさの主張が正当化されるのです。

調査文献で明らかにされていることは、実際には、クライエントが、心理療法の結果に対する唯一の、最も有力な貢献者であるということでしょう。どんな治療でもそれがうまく行くかどうかを決定するのは、クライエントがどんな関わり方をしているかという関与の質と、彼らがセラピストをどう知覚しているかというセラピストに対する知覚、そして、セラピストがやっていることはどんなことかということなのです。実際には、クライエントの、強さやリソース、苦しんでいた期間、社会的援助、生活環境、その人生を綾なす偶然の出来事などの全体的な生活基盤が、セラピストがやっていこうとするいかなることよりも重要なのです。クライエントこそが、心理療法における変化の真の達人であり、このことは調査研究によって存分に、明らかにされてきています。つまり、彼らはいつもセラピストよりももっと力を持っているのです。

心理療法が統一言語によって誘導されていくと、治療技法は、特定の理論学説やセラピー学派を反映することがなくなり、それに変わって、他の共通要因の効果を高めていくための媒介役を果たすことになります。その結果、セラピストが正しい介入法の理解や、正しいブランド・セラピーを実践しようとして時間を費やすことが減り、もっと大切なことに時間をかけられるのです。つまり、了解すること、傾聴すること、関係を築くこと、そして、クライエントが自分の助けとなる方法を見つけられるように励ますことです。

重要なのは治療をする際に、クライエントの能力について想定している治療専門家の姿勢であるのです。この姿勢には、あたかも、クライエントは有能であり、問題解決に必要な強さやリソースを持っている人であるかのようにみなして治療することも含まれています。この姿勢については、おそらく、精神分析家のアルフレッド・アドラーが、治療に際してすべてのクライエントに言っているときに、最もうまく要約されているでしょう。「私が確信を持ってお話しすることができることは他でもありません……患者さんが、被害者として、うまく理解していないようなことを、私から学ぶことなどまったくできないことだということです」。

セラピストは治療の成功をソリューション・フォーカストの技法(例えば、特別なインタビュー技法やミラクル・クエスチョン)に帰属させる傾向にありましたが、クライエントは治療結果への決定的な要因として、強力な治療関係(例えば、治療者の需要性、非所有的な暖かさ、肯定的関心、肯定すること、自己開示)を一貫して挙げていたのです。

あるクライエントの問題の原因は、多くの場合、そのクライエントが出会った特定のセラピストによって決まるのです。例えば、回復志向のセラピストに出会ったクライエントは、まもなく自分たちが機能不全の家族の中で育ったことを見つけるし、論理情動療法の訓練を受けた治療専門家に出会ったクライエントは、不合理な思考習慣が問題の根底にあるのを直ちに学びます。

ベイトソンの話に出てきた2人の姉妹にとって、父親にお辞儀をすることが尊敬を学ぶ方法となったように、モデルやテクニックは、セラピストに対して、効果的な心理療法の中核的構成要素、つまり共通要因に合う考え方とか態度や行動を要請したり、練習するための、学習も反復もできる構造化された方法を提供してくれるのです。

モデルとテクニックはことわざの「月をさしている指」なのです。モデルやテクニックはセラピストが共通要因の方向へ視点を向けることを援助してくれます。そして、そうすればそうするほど、モデルとテクニックはより一層役に立つものになります。けれども、指に焦点を当てると治療は月の的を外れてしまうのです。

心理療法の効果を占う要因は、1.治療外要因(40%)、2.治療関係要因(30%)、3.モデルや技法要因(15%)、4.期待、希望、プラシーボ要因(15%)である。これらの要因を、どんな流派であっても共通要因として、それを統一言語として記述する。各要因について具体的な事例を用いてくわしく説明している。

教育の領域では、当初から、ピグマリオン効果に見られるように、教師・生徒間の関係を重視してきたが、それはむしろ「裏」での扱われ方だった。モデルとテクニックという面では、教育技術の法則化、仮説実験授業、百マス計算といった流派が運動を続けている。おそらくこれらはすべて「月をさしている指」だ。共通要因として働いているものは、学校外の要因、教師と生徒の関係要因、そしてプラセボ要因(学校に行けばなんとかなるよね)で、8割方を占めるだろう。いや、本当にそう思えてきた。