KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

エドワード・ホフマン(岸見一郎訳)『アドラーの生涯』

アドラーの生涯

アドラーの生涯

アドラーはこういっている。私の名前を誰も思いださなくなる時がくるかもしれない。アドラー派が存在したことすら忘れられてしまうかもしれない。それでもかまわない、と。「心理学の分野で働くすべての人が、私たちとともに学んだかのように、行動することになるだろうから」

この本は、アドラーの生涯と社会背景を詳細に記述しています。

一般には、フロイトユングアドラーとまとめて心理学史で紹介されることが多いのですが、アドラー自身は「フロイトの弟子」と誤解されたり、誤って紹介されることについて最後まで怒っていたのです。そしてそのことが正当であることは、この本を読めば納得できるでしょう。アドラーの理論はフロイトのそれとは比べられない独自性を持ち、時代を超えて通用する理論であることは、1世紀たった今だからこそ評価できることかもしれません。

この本を読んだ後は、アドラーの位置づけを変えなくてはいけないことに気がつくはずです。行動主義の祖、J.B.ワトソンとともに、アドラーがアメリカでの心理学の確立に貢献したこと。後の人間性心理学の潮流につながる、ロジャーズやマズローに大きな影響を与えたのがアドラーであったこと。その意味で、最初の引用に示されているように、アドラー派という枠組みを超えて心理学全体に大きな影響を与え続けているということ。

今の私には、教育心理学の中でアドラーをきちんと位置づけすることが必要だということに思い至りました。

翻訳については端正ですし、最初から日本語で書かれたように錯覚するくらい自然な文章です。

この本については、あらためて雑誌に書評を書く予定です。