KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

実用文ワークショップのイントロ

11月18日のアカデミック・ジャパニーズ・グループ研究会で、イントロとして話したことをまとめておきます。

実用文ワークショップのできるまで

富山大学で1993年から始まった「言語表現」科目は、新入生を対象に日本語の書き方・話し方をターゲットにした先駆的なものだった。その授業を担当した一人として、9年間の蓄積が、実用文ワークショップの元になっている。富山大学を離れてから、社会人を対象とした作文のワークショップを設計・実践することになった。これは最初は3時間のワークショップだったが、実践を重ねるうちに今の6時間のワークショップになった。現在では、自治体や地方のグループ、学校からの依頼を受けて、年に数回、全国で開催している。

実用文ワークショップの特徴

特徴としては、第一に、具体的に書くニーズのある人を対象としていることだ。それは必ずしも書くことを専門にしている人ではなく、一般的な仕事の中で、どうしても書かなければならないことがでてくるので、その仕事をうまくやろうということだ。したがって参加者の動機づけは高い。

第二に、書くことのハードルを下げるということだ。書かなければいけないのだが、なかなか書けない人を対象としているのだから、参加者を怖じ気づかせてはいけない。そうではなく、できるだけ書くことのハードルを下げ、このステップでやれば「書ける」という感じをつかんでもらうようにする。

第三に、書くことの「型」を身につけてもらうということだ。「自由に書いていいのですよ」という指導を受けて、私たちは書けなくなってしまった。このワークショップでは、この型にしたがって書けばまず間違いなく書けるという「枠組み」を体得してもらうことを第一に考えている。型を身につけたあとに、さまざまな個性が出てくると考えている。

第四に、ワークショップの雰囲気の良さを最大限に利用している。書くことは本来孤独な作業だが、それをあえてグループワークで進めることで、参加者同士が勇気づけあい、作業が知らない間に進んでいくという効果を狙っている。そのために遊び的な要素を取り入れたり、互いの意見や感想をシェアするということを行っている。

第五に、このワークショップで身につけた作文の仕方を、自分の身近にいる人や同僚に教えてほしいということを推奨している。ワークショップで指導できる人数には限りがあるけれども、参加者それぞれが周りの人に教えれば、何倍もの人数の人が作文の仕方について学ぶことになる。そういう広がりを期待している。

実用文ワークショップの理論的背景

実用文ワークショップは「プロセス・ライティング」という考え方を理論的背景にしている。認知心理学が人間の作文プロセスについて明らかにしたことは、作文は「構想→作文→推敲」のように直線的に作業が進むのではなく、読者やテーマの設定、全体の構成、段落の構成、文のつなぎ、表記の問題などさまざまなレベルの複数の課題を同時並行的に解決しようとしているということだ。これが作文を困難にしている理由なので、プロセス・ライティングは、一度に一つのレベルの課題を解決して、作文をやりやすいものにしようとする。

一方で、ワークショップという形態を使って、グループワークをし、参加者同士がお互いの仕事をファシリテートしようとしている。それは、たとえばノンストップ・ライティングの実習で、2人組あるいは3人組になって相手の話を聞いて、それをそのまま文字にするというような実習に見られる。一人でやるには初めは困難であるような作業を、グループでやることによってうまくいく体験をさせようとしている。

実用文ワークショップの次に来るもの

ここで扱う実用文は、「娘への手紙」や「会合へのお誘い」といったものから「企画書」、「報告書」までを扱っている。より実証的な文章、あるいは説得的な文章を書くためにワークショップの応用編を考えている。そこで扱うことは、より効果的な序論の書き方や、主張を成立させるためのToulminモデルを使った段落の書き方というものをカバーすることになる。