KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

地下鉄のブルース・リー

名古屋から帰ってきた。2日続けての討議は疲れたけれども、終わった感じはいい感じだ。

地下鉄でのこと。

ジャージを着たお兄さんが乗ってきて、私の隣に座った。しばらくして、

「ちょちょちょーーー、あちょーあちょ。とうとうととととぅーーーー」

と叫び始めた。ブルース・リーのまねみたいだ。

(ああ、またこれだ。何で私の近くに変な人が来るんだろう)と思ったが、叫んでいるだけでは実害はないので、そのままにしていた。「あちょー」がひとしきり終わると、

「知らないふりをしているそこのやつ」

と、はっきりした声で、ゆっくりとしゃべりはじめた。

「何か言いたいことがあるんやったら、かげでこそこそ言わずに、ゆうてこい」

「そんときにゃあ、相手になってやるけんのう」

周りに緊張が走る。とはいっても、誰かをにらんでいっているわけではない。ブルース・リーは真正面を見ているだけだ。真正面には人は座っていない。

だが、斜め向かいに座っていたお兄さんは自分のことだと思ったらしい。その人はだらしなく足を投げ出していて、ブルース・リーが乗ってきたときに、ちょっと足がひっかかったのだ。

そのお兄さんは、「すみません」といい、次の駅で降りた。ブルース・リーは何もしなかった。その人を見ることもなかった。

ブルース・リーはおもむろに立ち上がり、今度は体でブルース・リーをやり始めた。手を突き出したり、足で蹴りをきめたりしていた。途中で「しんだばし」と言っていたが、なんのことだろうか。最後に「おす」と言って型を決め、座席に座った。

「ちょちょちょーーー、あちょーあちょ。とうとうととととぅーーーー」

再び、ブルース・リーの叫びを始め、しばらくして終えた。そして、

「知らないふりをしているそこのやつ」

「何か言いたいことがあるんやったら、かげでこそこそ言わずに、ゆうてこい」

「そんときにゃあ、相手になってやるけんのう」

と言った。まったく同じセリフだ。今度は「すみません」という人はいない。だが、そんなことは関係ない。彼は彼の仕事をするだけだ。

再び立ち上がって、型の練習。途中で「しんだばし」。最後に「おす」。

「ちょちょちょーーー、あちょーあちょ。とうとうととととぅーーーー」

3回目が始まった。

「知らないふりをしているそこのやつ」

「何か言いたいことがあるんやったら、かげでこそこそ言わずに、ゆうてこい」

そこで、目的の駅に着いたので、私は地下鉄を降りた。