KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

しかし、親にとって本当のチャレンジは、ここに書かれている方法を「自分で決心して使うことができるかどうか」ということです。

奥田健次『世界に1つだけの子育ての教科書---子育ての失敗を100%取り戻す方法』(ダイヤモンド社, 2014)を読みました。この本は、

  1. 暴力/暴言/物壊し
  2. ぐずぐず/いじける
  3. 偏食/トイレ嫌い
  4. ほめる/叱る
  5. 不登校

といった典型的な問題行動に対して、親がどのように対処したらよいかについて、行動分析学による方法を伝授します。行動分析学の基本、ABC分析と行動随伴性について、わかりやすく書かれています。

たとえば、「やりたければどうぞマインド(ただしその結末から学んでもらいます)」、「スモールステップ(最初は100%できることから)」、「プレマックの原理(嫌いな物を少しだけ食べてもらってから好きなものをたくさん)」、「脱イネイブラー(脱過保護)」といったキーワードを用いて、印象的に行動分析的技術を伝えています。

お勧めです。

世界に1つだけの子育ての教科書―子育ての失敗を100%取り戻す方法

世界に1つだけの子育ての教科書―子育ての失敗を100%取り戻す方法

 

さて、この本を読んで、深く納得する親は多いことでしょう。行動分析学は実証科学ですから。 

しかし、親にとって本当のチャレンジは、ここに書かれている方法を「自分で決心して使うことができるかどうか」ということです。その意味で、本当に問題なのは「子どもの不適切な行動」そのものではなくて、「親の決断」なのです。その決断を、この本は読者に迫ります。実は、非常に厳しい本です。

もし、親がここに書かれている方法を生半可に(やったりやらなかったり)使うとしたら、それこそ「変動強化」という行動分析の強力な原理により、子どもをより依存的にしてしまったり、問題をより根深いものにしてしまう危険性があります。その覚悟を親は迫られるということです。

びっくりしたことに、この本の巻末「エピローグ」にアドラー心理学が言及されています。『嫌われる勇気』です。もしかすると、どちらの本もダイヤモンド社の出版ということかもしれませんけれども。

ともあれ奥田先生はアドラー心理学に肯定的です。

(アドラー心理学は)おおよそとても的を射たものだろうと思いますね。ただ、アドラー自身や周辺がまだ科学的な検証を行わない時代だったので、そのままここまできているんだと思います

そして

どんな子育ての目標を立てるか、価値を置くのか。これとテクノロジーは別次元の話でしょ?

と言って、アドラー心理学(価値・思想)と行動分析学(テクノロジー)とをきちんと切り分けています。感動的なことに、半世紀たってふたたび、第2勢力心理学(行動主義)と第3勢力心理学(人間性心理学)が、ここであいまみえるわけですね。

とすれば、『世界に1つだけのもうひとつの子育ての教科書』として、アドラー心理学に基づいた子育ての教科書が書かれなければならないと思います。それは、野田俊作先生の子育てプログラム「パセージ」のテキストとして、すでに長く存在しているわけですが。