KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

モバイルなんてやめておけ

 今回のように少し長い期間(三日間以上)出張するときにいつも思うのは、携帯型パソコンを持って行くべきかどうかということだ。締め切りの近づいている原稿は少しでも書かなくてはならない。しかし手で書くのはもう面倒な体質になってしまっている。そこでパソコンを持って行くかどうか悩む。

 実は出張中にはあまり原稿を書けないことは経験済みである。もともと何らかの仕事があって出張するわけであるから空き時間はあまりない。たとえ時間が空いたとしてもじっくり腰を落ちつけて書くという気分にはなりにくい。ホテルの部屋に閉じこもるよりは、外に出て見知らぬ街を歩いてみる方がよっぽどおもしろいからだ。

 今回の出張ではノートパソコンを持ってこないで、代わりに原稿用紙を持ってきた。ノートパソコンを持ってきても結局はエディタの機能しか使わないのである。スケジュールは薄い手帳にすべて入っているし、メールのチェックや日頃愛読しているWebページを読むのは出張先のマシンでたいていできるようになっている。それならば原稿用紙だけで十分ではないか。原稿用紙でノートパソコンになるのならばこれほど軽くて荷物にならないものはない。

 原稿用紙に日記や本の原稿を書いてみて感じたことは、紙に書き付けることの意味が変わってきているなということである。どういうことかというと、原稿用紙に書くということは昔であればそれが最終的な生産物であった。しかし今では、最終的な成果はデジタルの形である。つまりパソコンに入力されてデジタル化されたものが最後の形になる。その前の形、つまり手書きの文字で埋められた原稿はあくまでも下書きに過ぎないのである。したがって、その下書きは入力可能な形で書かれていればいいのであり、マス目にしたがって書かなければならないということもないし、たとえば「原稿用紙」という単語が繰り返しでてくるのであれば、それを二回目以降は「原〜」としてしまってもいい。他人に渡す原稿であればこれは混乱を招くことだが、このあとパソコンに入力するのは自分自身であるから、自分が了解している限りこうした省略が許されるし、また速く書くためにもむしろ必要なことである。

 原稿用紙に書いてみると、これはなかなか新鮮である。ひとつは、書いたら書いた分だけ用紙に文字が埋まり、枚数がたまってくるということだ。つまり書いた分だけ手元に残る。これが達成感をもたらしてくれる。その点、パソコンでは書いてもあまり充実感がない。せっかくパソコンを持っていってもあまり電源を入れることがなかったりするのは、充実感がないということも原因のひとつにあるかもしれない。

 手書きで書いたあと、これをもう一度パソコンに入力し直すのは確かに面倒な仕事だが、それさえ考えなければ書くこと自体は快適である。今、こうしてパソコンに入力しているのだが、気がつくことは、原稿用紙に書いたものとは少しずつ違う形で入力しているということだ。つまり推敲しながら入力している感じである。この原稿でいうと、出だしの部分は手書きの原稿とはかなり違っている。このことから言えることは、手書きの原稿はあくまで下書きであり、決定稿ではないということだ。原稿用紙を目の前にするとなかなか書き出せないという人が多いけれども、あくまでも下書きを書いているのだと考えれば、そうした心理的バリアを低くすることができるのではないだろうか。

 手書きとパソコンに入力した文章を比較してみると、手書きでは書く字数を少なくしたいので(手が疲れるから)、できるだけ短い文章で書かれているのに対して、パソコンで入力するときには、もう少し説明や補足や例が詳しくなり、文章がより長いものになっているのが分かる。逆に言うと、パソコンで書いた文章は饒舌になりやすいということだ。これも経験からうなづけることである。

 下書きでいいのであれば、わざわざ原稿用紙に書く必要はないかもしれない。レポート用紙でも、メモ用紙でも、B6カードでもいいのだろう。原稿用紙を使うのは、ただ書いた字数がだいたいどれくらいになるかということを計算するのに便利だからである。しかし字数はあくまでも目安である。というのは、原稿用紙に書いてみてわかったのだが、マス目に一字一字いれるのは面倒である。特にひらがなは三文字で二マスくらいでちょうどいい。それがわかってからはマス目にこだわらずに書くようにした。そうするど速いスピードで書くことができる。これはもっぱらひらがなを速く書けるようになるのが原因である。そうすると正確な字数計算はできなくなるが、それでかまわない。字数は、原稿を入力した段階でパソコンが一文字の誤りもなく計算してくれる。字数をオーバーしたならばその段階でいくらでも調整がきく。

 原稿用紙に書くことも、パソコンに書くことも大きな違いはない。手書きでは、あとでパソコンに入力しなければならないという不利があるが、それはいくら軽くなったとはいえ、1-2キロの重さのパソコンをかついでいくこととトレードオフ関係にある。とすれば、一束の原稿用紙を持っていく方が気も心も軽いし、旅行カバンも軽くなるというものではないか。