KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

集中講義日記(北教大)

8月3日(月)さあ、北海道へ

 札幌行きの飛行機は子供連れが多かった。やはり夏休みである。北海道教育大(北教大)には宿舎がないので、無理を言って北大のポプラ館に二部屋を取ってもらった。朝食込みで四千円。シングルルームはものが書けるスペースもあり、まあまあ快適だ。

 昼食抜きで来た私と山崎君は夕方四時に宿舎を出て、サッポロビール園まで歩く。ジンギスカンを二人前ずつ計四人前を一気にたいらげる(写真)。ジンギスカンを食べると北海道に来たなぁ、という感じがわいてくる。六時半頃、宿舎に戻る。

 時間があるので、原稿を少しでも進める。今回はパソコンを持ってきていないので原稿用紙に手書きである。原稿用紙を使うことはここ数年来まったくなかったので新鮮な体験である。原稿用紙に書き付けていると、日本語を書くということはマス目を一文字一文字埋めていく作業なんだなあということを再確認する。「作文技術」の原稿を一ページ進める。

8月4日(火)誕生日が同じ人がいる確率は?

 集中講義一日目。参加者は22人。まずこの授業のイントロと自己紹介をする。私の自己紹介で10月2日が私の誕生日だというと、びっくりして奇声をあげた女の子がいたので、どうしたの?ときくと、自分の誕生日が一日違いの10月3日なのだという。なんだ、それくらいのことで驚くなよ、と思ったが、これをきっかけにしてあの話をしようと思いつく。

 あの話とは、今ここにいる22人の中で誕生日が同じであるペアがいる確率はどれくらいだろうね、というものだ。みんなに尋ねてみると、10%くらいの確率だろうという。一人だけ60%だという人がいたので、なぜかときいてみると、そのような話を聞いたことがあるんだという。しかし、その子を除けば他の学生は全員10%くらいだろうという。

 これを読んでいるみなさんも、せいぜい10%くらいの確率だと思うでしょう。でも計算によると50%近くの確率にもなるのである。ネタ本によれば、23人のパーティで誕生日が同じであるペアがいる確率は約50%となっている。しかし、私が、確率的には半々でこの中に同じ誕生日のペアがいますね、といっても学生は信じない。まあそうだろうね。そこで私は、じゃあここにいる全員の誕生日をいってみようか、と提案して、次々に誕生日をいってもらう。確率50%なら同じ誕生日のペアがいても全然不思議ではない。

 全員に誕生日をいってもらうと、はたして、最後の方で同じ誕生日の人が出た。事実は何よりも雄弁であるね。ちなみに一日違いの誕生日のペアだと二、三組いたように記憶している。これで「20人くらいの合コンで、たまたま誕生日が同じ人がいても、運命の出会いだとはけっして思わないように。確率的にはよくある話なのだからね」と結ぶ。

 さて、授業は午前中にまず「単純接触効果」の実験をしたあとで、それに関連した社会心理学のレクチャー「恋愛必勝法」をする。午後はレポートの書き方を解説して、午前中の実験データを使ってレポートを作成する。レポートはマッキントッシュ上でクラリスワークスを使って作るのだが、みんなマックは初めてだといいながら、ウィンドウズを使っている人もいて、少しの練習で速い上達をみせた。レポート作成は4-5人からなる4つの班に分かれて作業した。

 夕食は北教大の伊藤進さん(写真)と邑本さんとで大通り近くの地ビールの店に行く。伊藤さんからは「創造力をみがくヒント」(講談社現代新書)をサイン付きでいただいた。伊藤さんと話していると、今井四郎さんや牧野達郎さん(二人とも知覚心理学の大家)といった先生がお互いの共通項であることが分かり、話が弾んだ。とても面白い、楽しい人である。盛り上がった中で、プレゼンテーションの本を邑本さんも加えていっしょに書きましょうという企画がまとまった。しかし、かなり酔っていたようなので記憶に残っているかどうか心配ではある。

8月5日(水)シェイピングのデモはお勧め

 集中講義二日目。午前中は「うまくやるための強化の原理」からのシェイピング(行動形成)のデモンストレーション。学生の一人を動物役、もう一人をトレーナー役になってもらいシェイピングの訓練をする。まず一組目は「時計回りに二回回転する」という行動を目標として、それに近い行動が出たら「よしっ」と声をかけて強化する。一回転するところまでは順調にいったが、そこから二回転までが難しかった。最後にシェイピングが完成するとみんなで拍手した。二組目はもう少し難しく「椅子の上に乗る」という行動。これは椅子という小道具に「動物」が気づくまでが大変で、なかなか椅子に気がつかない。私が「もう少し自由に動いて下さい」とアドバイスして、いろいろ動いているうちに椅子に手を触れたところですかさずトレーナーが「よしっ」と強化(写真)。椅子に一度気づいてしまえば、それに乗らせるのは簡単なことだった。

 このシェイピングのデモは私にとっても初めての試みであったが、非常にうまくいったと思う。トレーニングを成功させるためには、なによりも相手をよく観察し、適切に強化することが大切なのだということが体得できる。このあと、行動理論についてのレクチャーをした。デモのあとなので説得力があっただろう。

 午後は、前日に提出してもらったレポートについて山崎君がアドバイスと評価をした。そのあと、ストループ効果の実験をおこなう。ここからやっと授業科目名の「認知心理学」らしくなってきた。実験はOracle Media Objects(OMO)で作ったスタックを使用する。全員が被験者となってデータを集め、グラフを作成する。ストループ効果についての一通りの理解をしたあと、班ごとにオリジナルの実験計画を立ててもらう。このプログラムを作る仕事が難所だったのだが、夕方6時には完成した。

 夜は、サッポロラーメンを食うために狸小路に行く。学生さんにきいた「山岡屋」でみそラーメン(550円)の大盛り(+100円)を食べる。ラードがこってりの太麺で腹にがつんとくるものであった。味はちょっと塩からかったな。

8月6日(木)最終プレゼンテーション

 集中講義最終日。午前中のマクラはまず、超能力による1-3までの数当てマジック。これはかなりうまくいった。もちろんタネがあるわけだが、それを明かしたあとに、心理学を学んだ人はこんなふうに騙されないようになって欲しいと話す。続いて、なぜ親や先生はほめることをあまりしなくなり、叱ったり罰を与えたりすることがなくならないのかということを、統計的回帰を根拠にして話す。以上が今日のマクラ。

 続いて、昨日つくっておいたOMOの実験プログラムを使って、他の班の人の全員のデータをとる。これも順調にいった。最後には私と山崎君までもが被験者に引っぱり出されることになるほど盛り上がった。データを全員分とったところで、それをクラリスワークスの表計算で集計し、グラフを描いたところで午前中は終了。

 午後は山崎君にスライドの作り方を説明してもらったあと、作業にはいる。これが意外に時間がかかり、3時を過ぎる頃にできあがってくる。プレゼンは四つの班がじゃんけんで順番を決めて開始。今回は厳格な時間制限は設けずに10分から15分の持ち時間とした。質問は発表班意外の班から一つずつだしてもらうことにした。プレゼンの採点は何度か使っている評価シートで私がつけた。82〜92点の優秀な成績であった。よかったね。しかし、班ごとに同一の採点をつける方法には、もう少し考えがあってもいいかもしれないと思う。たとえば授業の別の場面から個別の得点を加算するとか。

 最後に無記名の授業評価をしてもらい集中講義は終了。私のホームページのURLを知らせておき、訪ねてもらうように案内した(読んでますか?)。

 学生の授業についての感想は次のようなものだった。(抜粋)

● 私は心理学科の学生なので、実験やレポートの書き方は慣れていたし、とても楽しかったんですが、1年目の他の学科の子たちは「何がなにやらさっぱり・・」だったみたいです。2年目以上等制限を付けた方が良かったかもしれません。

● 大変おもしろかったです。始まる前までは授業の内容もあまりわからず心配だったのですが、いざ受けてみると予想外の話が聞けるなど楽しいものでした。特に恋愛講座、とてもためになりました。

● 授業はとても楽しかったです。すごく心理を勉強したいなという気持ちがわきました。英語科なので勉強できる量も限られてきますが。

● とても興味を持って授業に望めましたが、一年生でコンピュータを扱うのも心理学を学ぶのも初めてのことでついていけないという疎外感を味わったのも事実です。たった三日で終了してしまうにはもったいない内容であったと思います。もう少し心理学に触れ、上級学年にあがってから受講していれば、また違った感じで受け取れたようにも思い、少し後悔もありますが受講できて良かったです。

● 心理学についてさまざまなことを習うことができ、参加して本当に良かったと思った。話の中に出てきたことに注意して、だまされないようにこれから生きていきたい。

● 最初の日の話など、自分の生活の中でとても役立つ話が聞けて、うれしく思います。私は心理科の学生じゃないし、コンピュータもほとんど触ったことがなかったので、実験を考えたり、データ処理をするのはただ与えられたことをやっている感じだったので、そこが少し心残りです。もっと心理学の話を聞きたいと思いました。

● 心理学の内容もおもしろかったのに加えて、レポートの書き方、パソコンの使い方、プレゼンテーションのやり方を教えていただけて(得)な講義でした。自分たちの作業が中心で、動き回るのも自由であんまり「講義を受けている」という緊張感も圧迫感もなく楽に参加できて楽しかったです。

● プレゼンテーションなどがあり自発的に進められるところが良かった。内容がやったことのないことであればもっと良かった。

● マックには苦労しました。すごく楽しい授業で、作業も多く飽きませんでした。授業に遅れる人が多かったのはとても残念です。失礼いたしました。

● 私にとって何よりうれしかったのはマックを使った授業だったことです。宝の持ち腐れ状態だったマックが有効活用できそうです。

● 今回初めて心理学の授業を取りました。自分にとってこの授業でやったことは初めてのことばかりだったので、とまどうこともありました。しかし、授業でのことはこれからの自分にとってプラスに働いていくことと思います。

● 私は認知心理学という分野にあまり関心がなかったのですが今回の講義で少し興味を持ちました。それからパソコンも苦手で初めはどうしようかと思っていましたが、普通の講義形式の講義より実際に活動することができたので楽しかったです。

● とっても楽しく受講できました。こんなに授業に集中したのは初めてです。またぜひ講義をしにいらして下さい。その時はまた受講します。

● 正直言って取れなかった講義の変わりに取ったのですが、パソコンを使って大変興味深い授業であったなと思いました。持ち上げるわけではないのですが、今回の認知心理学のような授業ばかりなら大学の授業が楽しいのにとも感じました。

● この授業が始まる前は心理科でありながら、認知心理学とは何か全然知らなかった。でも始まってみるととてもおもしろかった。

● とてもおもしろかったと思います。これで満足ということはないと思いますが、授業を受ける身としては、大学の中でも大変ためになり、興味深い授業だったと思います。

● 教養+専門のような内容だと思いました。もう少し数多くの実験をしてみたかったです。話は興味深かったです。

● 心理学というのに何となく興味があってこの講義を取りました。「どうせ単調で説明だらけで寝ちゃうけど一応興味があって単位ももらえるし」と思ってました。だけと実際は動的(?)で楽しかった。眠くなったのは寝不足のせいで、講義はおもしろかった。