- 作者: M.W.アイゼンク,E.ハント,A.エリス,P.ジョンソン‐レアード,Michael W. Eysenck,Earl Hunt,Andrew Ellis,Philip Johnson‐Laird,野島久雄,半田智久,重野純
- 出版社/メーカー: 新曜社
- 発売日: 1998/05
- メディア: 単行本
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小学校のころ、事典を読むのが好きだった。学研のセールスマンが家に売り込みに来た全8巻だったかの図解百科を見て「買って!」と親にねだった。上質紙のページの半分は美しいカラー図版で埋められたその百科事典は、今思えば安いものではなかったに違いない。しかし自分の子供を天才だと信じて疑わなかった私の両親は、その事典を買って私に与えてくれた。たいていの親は自分の子供は天才だと思う。それは自分が子供を持つ今になって納得できる。
私はその百科事典を一冊選んできて布団にもぐり込むのが好きだった。五十音順に並べられた項目は前後の脈絡なく登場する。科学、工業、歴史、文学、スポーツといった項目をランダムに読んでいくうちに寝ていた。世界は面白いことでいっぱいだと思った。
この認知心理学事典も、認知心理学は面白いことでいっぱいだということを改めて認識させてくれる。
中項目、トピック主義による編集なので、単独の項目を読んでも面白さがわかるというのがこの事典の最大の特徴だ。たとえば、6ページに渡る「認知心理学の歴史」という項目は読みごたえがあるし、1ページほどの「ユーモア」という目新しい項目も楽しい。
最初のページから読み進めていけば認知心理学が問題にしてきたテーマをおさらいすることができるし、新しい発見をすることも多いだろう。卒論や修論のテーマが決まらないという心理学の学生は、目をつぶってこの事典を開き、そこにあるテーマに決めるという使い方もできる(そんな無茶な? それでもそのテーマにハズレはないはずだ)。大学院入試を控える人の参考書としても役立つ。なによりも認知心理学の中にきら星のように輝くテーマ群を一望することで、わくわくするような気分にさせられるのがすばらしい。人間は面白いことでいっぱいだ。
450ページを越える分厚い事典をたった3人で訳されたことに敬意を表したい。あとがきに90年代はじめに訳し始めたと書いてあるから7年ほどかかっている。訳文は十分に読みやすい。
【偶然目に付いた疑問ありの訳】「書記writing」の項目中(p.193)の knowledge telling strategy を「方略を教える知識」と訳しているが、文脈からも「知識をられつする方略」の方が適切だろう。
【オマケ】「ヒューマン・コンピュータ・インタラクション」の項目中(p.373)、「直接操作性」の説明で「Xerox Starという実験的なコンピュータ・インタフェースの上での研究にもとづくものである。ここからアップルのMacintoshとそれを真似たコンピュータが生まれた」(強調筆者)とある。