KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

研究方法としての1学級計画

 パイプオルガンの音色を聴くと、

……す、すまん、オレが悪かった。許してくれ。

 という気持ちになってしまうのはなぜなんだろう。宗教はおそらくこうした謎の力を利用している。

 阪神大震災のときに壊れた甲南女子大のパイプオルガンが、関係者の努力によって修復され、最近完成した。学会のアトラクションとしてオルガンのコンサートを一時間ほど楽しんだ。

 教育心理学会の3日目、最終日は午前中のセッションだけ聞いた。教室をフィールドとして研究をするときのデータ収集と分析についてのシンポジウム。話題提供の3人と指定討論の1人、計4人のうち3人は、統計寄りの立場で、田中敏さんだけが、それとは違った全く新しい視点を打ち出していた。

 田中さんは、アクションリサーチの一つとしての「1学級計画」という斬新な研究法を示唆した。結論からいえば、学級を研究するときに実験計画法は不向きであるということだ。そこでは常に、「統計的信頼性」と「現実的妥当性」の綱引きがおこなわれていて、両者が同時に成立するのはまれである。結果の一般化を目的とするラボラトリー・メソッドに対して、教室内での自分自身と生徒について知り、その環境と行動を改善するためのアクションリサーチが求められていると主張する。それは一般化しないでもいい、と開き直る。むしろ一般化しない方がいいのだという。つまり一般化と言ったとたんに統計の呪縛にはまってしまうからだ。

 1学級デザイン(N=30デザインとも)について。これは、独立変数が従属変数にどう効いているかということを明らかにする従来の実験計画法と逆である。30人の学級で(N=30)、たとえば15人が効果ありで、15人が効果なしであったとしたら、そこからさかのぼって独立変数を探していく。つまり個々の学生を丹念に調べていく。これは仮説検証型の研究とは逆で、「探索、発見、開発」のための研究なのである。このタイプの研究を、仮説検証型の研究と並んで、重視していこうと主張する。そのためにわれわれが使える統計的道具は、コレスポンデンス分析、クラスター分析、判別分析などの多変量解析であり、またノンパラ統計、さらには人間のエキスパート推定である(これは統計ではないが)。

 これは帰りのバスのなかで田中さんと話したこと。統計や数字に拘泥するのは、統計コンプレックスの裏返しだ。大切なのは数字をいじることではなく、自分の持っているフィールドを知ることであり、それは統計学の専門家はできないことなのだ、と。