KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

学ぶことの課題レベルと討論レベル

 ICCE99での、Geoff Cummingさん(オーストラリア)の統計学教育についての発表が面白かったのでまとめておく。

 統計学にせよ、他の学問領域にせよ、ふたつの学習のレベルがあるだろう。ひとつは「課題レベル(task level)」で、物事をどのようにしたらいいかということがわかり、実際にそれができることだ。たとえばt検定をどのようにするかというようなこと。もう一つのレベルは「討論レベル(discussion level)」で、考えたり、話し合ったり、説明するレベルである。これはひとつの事柄をさまざまに表現し、説明する能力が問われる。

 今自分がやっていることの意味や本質が理解できていなくても、課題レベルではできてしまうことがある。しかし、学習ということの意味は「理解への接近(progress to understanding)」であり、課題レベルだけでの成功では不十分である。

 討論レベルの学習を成功させるためには、教師はさまざまな形式での学習活動を組み立てる(build a set of learning activity in a variety of formats)という仕事をしなくてはならない。これを教育デザイン(educational design)と呼びたい(伝統的な伝達モデル(transmission model)における教授デザイン(instructional design)と対比させて)。

 そのために、統計学教育でデモツールを利用した、さまざまなシミュレーションをやらせている(たとえば平均のダンス(dance of means)というような)。こうした活動によってたとえば誤概念の多い「標準誤差(standerd error)」のイメージを適切なものに変換することができる。

 私が開講している統計学のPSIコースは、課題レベルの学習をまずターゲットにしている。しかし課題レベルのコースの欠点は、そのときには理解したように見えても、何ヶ月かたってみると理解が浅かったということが見られることだ。そのことは説明させてみるとよくわかる。概念についてのイメージ、あるいは多面的な表象(multiple representation)ができていないのだ。これを作り上げるためには、試行錯誤的なシミュレーションが効果的だ。

 とはいえシミュレーションばかりをやっていると、時間の割に概念の獲得が少なくなる。つまり効率(efficiency)が落ちる。それをどう工夫して、あるいはさまざまな教授方法を組み合わせて克服していくか。つまりは、こうしたデザインの問題が教育工学の中心的な課題のひとつなのだろう。