KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

物書きの「職業破壊」

岩波のPR誌「図書」622号の巻頭に、玉村豊男の「職業破壊」というタイトルのコラム:

 半年かけて原稿用紙四百枚の原稿を書いて本にしても、定価千円初版五千部で印税は手取り四十五万円。とても生活を支える収入にならないことは物書きなら誰でも知っている。が、
 「どうせ収入は期待できないのだから、今後書き下ろしはすべて自分のホームページで発表して無料公開するつもりだ」
 と私がいうと、同業者の友人は驚いて、そんなことをされたら困る、職業破壊じゃないか、という。
  …中略…
 特許を取って独占するのではなく、無償で提供して普及を図る、ネット時代のビジネス哲学。有用な思想を提供できるアマチュア執筆者には、ほかのところで収入の道が開けるに違いない……。

私は物書きではないが、本を書いて、その印税で生活していくことの大変さは想像できる。何十万部と売れれば話は別だけれども、そんなことはめったには起こらない。狙ってできるものでもないだろう。だからいっそのこと「全部無料で公開」というような玉村さんのような過激な意見も出てくる。

文章を書いて、それを買ってもらう、ということは考えてみると不思議なことだ。

以前何の番組だったか、競馬の予想屋という職業を追ったドキュメンタリーがあった。自分の予想を書いて、それを買ってもらう、というのは何となくわかる。予想された馬券を買って、当たれば、予想を購入した意味がある。しかし、はずれたとしても予想屋に払い戻しを請求するわけではない。その予想屋を信じた自分に責任がある。情報を売り買いするということは、そういうことだ。一種の賭だ。誰かを信じ、その人のいっていることを信じるという二段構えになっている。

つまり、文章を書くということは、その著者を人々に信じてもらうために使われる。一度信頼が得られれば、その人は講演をしたり、テレビに出演したりして収入の道が開ける。あるいは、会社のブレーンとして雇用されたりするかもしれない。そういうことを玉村さんはイメージしているのだろうか。