- 作者: ローレンスレイター,Lauren Slater,岩坂彰
- 出版社/メーカー: 紀伊國屋書店
- 発売日: 2005/08
- メディア: 単行本
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とてもおもしろい本。とばし読みをせずに隅から隅まで読んでしまった。これは、「物理学偉人伝」的なおもしろさ。もちろん、著者は心理学者本人にあってインタビューをして、それをノンフィクションとしてまとめている。しかし、そのストーリーの運び方が、小説的脚色に満ちている。同時に著者本人の苦悩のようなものもにじみ出ている。不思議な書き方だ。
奇妙な言い方だが、著者は心理学実験を慈しんでいるようだ。その実験を企てた研究者の思いこみや固執とともに。
- 心理学実験はうまく行けば、人間の経験をぎりぎりまで圧縮し、蒸留して、その本質を見事に析出させるものになりうる
- この本で取り上げた実験は、研究としてだけでなく、物語としても賞賛に値する
- ミルグラムの実験は「そのこと自体を明らかにしただけ」だと言う者もいる。これは厳しい批判である。
- ダクラス・モーク「外的非妥当性の弁護」:一般化を実験の価値の指標する考え方全体に疑問を投げかけている
- 実験の意義は、定量的な結果にではなく、その教育的な力にある
- フェスティンガーの認知的不協和理論は、スキナー派に打撃を与えた
- 人間はごくつまらないものによって動かされる
- 「人間の行動は報酬の理論だけでは説明できない。人間は考える。人間は、自らの偽善をひたすら正当化するためだけに、驚異的な心の体操を行うのである」
- いったんは喫煙を始めた人の9割は自力でタバコをやめている。何のプログラムも助言者も専門家の助力もなしに。
- 窮屈な空間に押し込められた人間は、問題解決検査でも、広い環境に置かれた人間よりも成績が悪い
- 結局、関係こそが記憶の基礎なのである。私たちの脳は、徹底的に関係づけの上に成り立っている。そう、脳のなかには一つの大きな出会い系サイトがあるのだ。
- 二十世紀の重要実験の一部が、この時代に生きる人間の生の最も深い問題に取り組む明確な形を示していたことがわかる。冷酷さ、大量虐殺、思いやり、愛情、愛の起源といった問題や、記憶と意味、正義、自立などの問題である。……これらの実験そのものが、実験心理学が実は現実の生を反映したものであり、それどころか現実の生そのものであるということを「実証」しているのである。
そして、唐突とも思えるが、本の最後の方で、実験心理学と臨床心理学の幸福な出会いを期待している。なんとも不思議な本だ。
- 私たちはなぜ、反抗心を育てる道徳中枢を持っていないのか? 私たちはなぜ、地域的にも国際的にも隣人に救いの手をさしのべることができないのか? 私たちはなぜ、ときとして自分の知覚を捨ててまでも支配的な視点に身をゆだねてしまうのか?
- 二十世紀の実験心理学の主要な問いとは、たとえはこのようなものであった。明らかに現実に関わる問題で、それは当然興味深いのだが、さらに興味深いのは、これらの問いが、心理学の一分野である心理療法の世界でまったく問題にされていないという点である。実験心理学と臨床心理学が出会う場所はあるのだろうか。それがどうもなさそうなのだ。
- だが、もっと大きな問題は、ごく近い分野で明らかにされているデータや実証を取り入れないことにより心理療法がいかに大きなものを失っているかということである。心理療法は、二十世紀を通じて進化していく中で、つねに「気分を良くする」ことを目指してきた。私の考えでは、これが良くなかった。
- 患者に自分の判断を押しつけないよう、患者を「無条件に尊重」するように訓練されてきた臨床心理士がその態度を変え、……患者の道徳的生活にあえて目を向けたなら、いずれは誰もが本心から望んでいること――超越への真の機会――を与えられるようになるかもしれない。