KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

TCシンポジウム ’96

TCとは聞き慣れない略語だがテクニカル・コミュニケーションのこと。マニュアルや説明書、オンラインヘルプといったものを作っているプロの人たちがこの学会の会員の大部分を占めている。したがって、普通の学会と違っているのは、聴衆がみんなプロだということだ。そのために、顔馴染みの研究の同業者に向かって話すのとは違う、緊張感と刺激がある。

面白かった発表

東工大の楠見さんの研究が面白かった。マニュアル利用の行動パタンを質問紙で次の4つに分類して、「コンピュータ不安尺度」で測られる「不安・緊張」などの得点との関係を見たものだ。4つのパタンとは、操作先行型(とにかくやってみる)、マニュアル先行型(まずマニュアルを読む)、他者依存型(周りの人に聞く)、あきらめ型(あきらめる)である。

他者依存型はコンピュータ操作に対して適応しているように見えて、実は非常に不安緊張が高い、という示唆に富むデータが出ている。これは学生の行動パタンを見ていてもうなずける結果だ。周りの人にどんどん聞いて、すいすい使いこなしている学生がよく目に付く。しかし回りにわかる人がいないときはお手上げだ。そんな彼らは実は不安が高いのだというデータが示唆することは、そこで腰を落ちつけてマニュアルを開く能力が大切なのだということだ。たしかに気軽に人に尋ねることができる能力は大切だが、本当に大切なのは、とっつきにくいマニュアルを開いて、自分で独学で学んでいくことができる態度能力なのだろう。

TC教育についてのパネルディスカッション

私はTC教育についてのパネルディスカッションで話した。その内容はニュースの3号で書いたとおりだが、その中でも特に、TCの専門家たちは、認知心理学者、ヒューマンインタフェース研究者に加えて教授デザイン(Instructional Design)の専門家たちとも手をつなぐのがいいと主張した。

司会の雨宮さんからは、これに対して、大学の側もまた、TCの専門家たちを取り込んで、新しいカリキュラムと教育を作って欲しいという要望をいただいた。まったくそのとおりだと思う。真次さんによると、テクニカルコミュニケーターの資格認定試験の準備も進んでいるとのことだ。教育情報コースからも、私のゼミからも、TCを専門とする卒業生が出てくれるといいと思う。この分野は女性の活躍も目立つ。ディスカッションが終わってから、黒部にあるYKKの方からわざわざ名刺をいただいた。何かを生産している会社であれば、必ずドキュメンテーション部門があるわけで、そうした部門にぜひ卒業生を送り込みたいとおもう。

全体として

今年は全体の発表件数が増えた中で、心理学研究者の発表が増えた。また、教授デザイン(ID)の研究発表(NTTラーニングシステムの方)もあった。アメリカ流のIDはむしろ企業内教育となじみがいいわけで、これからIDの研究も増えてくるのではないかと思われた。また、パネルの会場には国語学の先生もおられた(今後、国語の人の悪口は慎重にせねば)。とにかくだんだん役者がそろってきた、という感じを持った。