KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

自閉症の世界

ビルガー・ゼリーン『もう闇のなかにはいたくない〜自閉症と闘う少年の日記』(草思社, 1999, 2000円)を読む。

2歳のとき何らかの原因で自閉症になり、18歳までどんな治療も功を奏さなかったのだけれども、パソコンを使ったコミュニケーション法(facilitated communication: FC)を習得してから、日記を書き始めたというケースだ。その日記につづられた内容は、魂の叫びといっていい。

ぼくは一介の自己をもてない人間にすぎません
みなさんのような世界の方たちとコンタクトを取ろうと
自閉症世界の闇から出てきたのです
けれどもみなさんの仲間にはなれません
ぼくの世界がいまだしかとぼくをとらえて離さないからです
ここら抜けだし みなさんの方へ行ける道はないかと
ぼくは探し続けています
なにか重要なことをしたいと夢に見ています
囚われている人間がどうしたら自由の身になれるのか
さんざん思い悩んでいます
ぼくにとって書くことは そのための最初の一歩です(p.188-189)

ビルガーは5歳の時から読み書きができたのだという。それも「直観像」(映画「レインマン」のマッチ!)の能力を持っているために、一冊の本を読むのに数分しかかからなかった。

自分がいろいろなことを知り、いろいろなことを考え、しかし、その考えをコントロールすることもできないし(パニックになってしまう)、他人に伝えることもできないとしたら、それは自分にとってどういう世界だろうか。それが自閉症の世界なのだということが想像できる。それが想像できるのはビルガーがFCによって文章を書くようになり、それを今読むことができるからだ。

幼児教育とパソコンについての依頼原稿を書いていて、そういえば10年くらい前に、自閉症の子どもとコミュニケーションをとるためにパソコンを使っているという報告があったなと思い出して、検索したらこの本に出会った。