KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

WASEDA.COMに載せるための原稿

WASEDA.COMに載せるための原稿を書いた。インタビュー形式で聞いてもらったものをICレコーダにとり、それを聞き返しながらまとめた。やはり、元の形式を生かすと、問答形式になるね。

早稲田大学eスクールは、普通のeラーニングとどこが違うのか

早稲田大学人間科学部では、2003年度からeラーニングシステムを利用した通信教育課程(通称「eスクール」)を開設しました。このeスクールは、他のeラーニングとどのように違うものなのかについて、聞いていきたいと思います。

■まず、eスクールの特徴を教えていただけますか?
□インターネットを使った「eラーニング」という学習の形であることはすでにご存じのことかと思います。その学習サイクルはだいたい次の3つのステップに分けられます。まず最初に、インターネットのストリーミング配信によって、自宅でオンデマンド授業を受けます。2番目に、その授業内容についてクラスごとに開かれているBBS(電子掲示板)で、同じクラスの人と議論をしたり、先生と質疑応答をします。最後に、テストをオンラインで受けたり、レポートを作成して送ったりして学習の成果を確認します。

■オンデマンド授業というのはどういうものなのでしょうか?
□ひとつは、教室で行われている授業をライブ撮りして、それを編集したものです。もうひとつはeスクールのために、スタジオで講義したものを収録したものです。いずれの場合も、通学制の授業内容と同じレベルのものです。また、先生によっては、野外で講義を収録したり、ゲストスピーカーを呼んで対談形式の授業をするなどの、一風変わったオンデマンド授業を提供しています。

■オンデマンド授業を受けた後のBBSでは、どんなことが行われていますか?
□BBSでの学習活動が、実は、eスクールの最大の特色です。30人前後で、1つのクラスを編成して、1クラスに1人の教育コーチがつきます。教育コーチの役割は、BBSをうまく運営して、議論を活性化し、学習内容を深め、発展させることにあります。通学制の授業ですと、講義を受けても、質問時間を長くとることはありませんし、ましてや、学生同士で授業内容について意見を交わすということは、非常にまれなことでしょう。しかし、eスクールではBBSでの議論が、重要な学習のステップとして位置づけられています。このことによって、ただ講義を聴くだけではなく、意見を交換したり、質問をすることによって、深い学習となります。

■教育コーチはどのような人がなるのですか?
□条件としては、担当する授業の内容について専門知識を持っていることです。基本的には修士号以上を持っている人を採用しています。そして、専門知識とともに重要なことは、オンラインでのコミュニケーションに習熟していることです。BBSでの議論はテキスト情報だけのやりとりになりますから、十分に自分の意図を文字にして表現できることが必須のスキルになります。さらにいえば、親切であることですね。教育コーチが親切であれば、それはBBSの画面からも伝わってきます。その結果、BBSという議論の場の雰囲気が良くなり、クラスのみんなで共通のものを学んでいるのだという一体感が生まれてきます。それは充実した学習体験になるでしょう。

eラーニングというと、個別にやっていくというイメージがありますが。
□もちろん、学習する場所や時間帯、また学習を進めるペースは、個人個人が決めるものであり、その意味では個別学習といえるでしょう。eスクールもまた、こうしたeラーニングの個別性を十分に活かした現代的なシステムです。しかし、eスクールはそれだけにとどまらず、教育コーチを配したBBSの活用によって、受講生同士の相乗効果を期待しています。お互いに意見を交わすことによって、さまざまな考え方を学び、自分独自の考え方を深めていく。その結果として、同じeスクールという場で学んだ仲間である、という意識ができあがっていくでしょう。それは、学習コミュニティという、すでに多くの大学が失ってしまったものを復活させるきっかけになるといってもいいくらいです。

■BBSの運営には、いろいろな難しさがあったり、トラブルが起こったりませんか?
□さまざまな年齢層や職業の人々が集まるeスクールでは、特にBBSの運営やトラブルへの対処に気をつかっています。一般的なインターネットのBBSで、すでにいろいろなトラブルが起こっていることからわかるように、文字によるコミュニケーションでは行き違いが起こりやすいからです。こうしたトラブルを乗り越えるためには、いくつか注意すべき点があるように思います。ひとつは、受講生が同じ学問を学ぶものとして、お互いに対等であり、お互いの意見を尊重し合うという合意です。もうひとつは、モデレータ(調整役)としての教育コーチの役割と具体的なスキルです。教育コーチが、うまくBBSを運営するというスキルを実質的に持っていることが重要であり、そのために教育コーチの研修では、ロールプレイによるBBSの運営スキルのトレーニングをしています。

■教育コーチの研修ではどのようなところに気を付けていますか?
□モデレータとしてのスキルについては、ロールプレイによるトレーニングをしています。しかし、何よりも重要なことは、eスクールが対象としている学生の特質を考慮するということです。eスクールの学生は大半がすでに職業を持っている社会人です。そうした人々には、授業に対する動機づけが高く、自発的、自主的に授業に関わってくるという大きな特徴があります。授業で学んだことを、すぐに自分の仕事や生活に応用しようと考えています。それをサポートするのが、教育コーチの最も重要な役割になります。その意味で、指導者というよりも学問上の支援者と呼ぶのがよいでしょう。

■BBSでうまく発言ができない人もいると思いますが、いかがでしょうか。
□パソコンを使うことが前提であるeスクールに入った人の中にも、オンライン上で発言することを、高いハードルのように感じている人もいることは確かです。eラーニングの研究の中で「オンライン学習の5段階モデル」というのが提唱されています。それによると、まず、第1段階として、学習コンテンツや学習コミュニティにアクセスできるということを保証しなければなりません。そして、第2段階として、「オンライン・ソーシャライゼーション」つまり、オンライン上で良い人間関係を作っていくということがポイントになります。そうした上で、情報の交換、知識の構築、発展へと展開していくわけです。ですので、eラーニングにおいては、まず、アクセスできることと、オンライン上の人間関係の構築をしなければなりません。こうしたことは、通常、eラーニングコースとしては含まれていないものですので、教育コーチや教員がケアしていくことになります。

■教員や教育コーチにとって、何か苦労はありますか?
□24時間いつでも質問が来るということですね。社会人が中心ですので、仕事が終わった夜から深夜にかけて、勉強するわけです。そうすると、そうした時間帯に質問が来ます。BBSで発言があると、すぐにメールで教員と教育コーチにお知らせが届きます。そうするとできるだけ早く返事を書きたいですね。その結果、寝不足になります(笑)。48時間以内に返事を書くということを目指していますが、できれば24時間以内に何らかのリアクションをしたいのです。そうした状況では、いつでも返事を書く準備をしていなければなりません。また、土曜日と日曜日は、社会人にとってはまとめて学習時間が取れる日になります。その結果、土日にさらに質問が多くなります。つまり、教員と教育コーチは、土日によく働かなくてはなりません。そういう性質の仕事です。

■どうもありがとうございました。最後に、これからのeスクールはどうなっていきますか?
□レクチャー型の授業の制作と運営については、かなりノウハウができたと思います。これからは、ゼミ形式の授業をどのようにしてeラーニングで運営していくかというところが、ヤマになりそうです。これからの大学・大学院の教育は、eラーニングシステムを利用したものが急速に増えていくだろうと予測できます。そうした時代に役立つような、研究的な知見を、実践の中で見いだしていきたいと思っています。