KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

J. ヘイリー『戦略的心理療法』

戦略的心理療法―ミルトン・エリクソン心理療法のエッセンス (精神医学選書)

戦略的心理療法―ミルトン・エリクソン心理療法のエッセンス (精神医学選書)

第1章 人間関係における策略としての症状

ベーコンの「知は力」、つまり、自己理解できれば自己支配できると考えること。これがフロイトが洞察にこだわる理由だ。つまり、デカルトパラダイムだ。しかし、自己理解は非科学的だ。自己理解せずに変化したら、それは本当の変化じゃないというし、自己理解しても変化しないとしたら、それは自己理解が足りないんだというへりくつをこね放題だから。

こうした精神内界的な見方から対人関係的(コミュニケーション的)見方をとることで、症状を捉え直すことができる。患者と医者の関係のなかで症状が作られている可能性がある。症状行動とは、あるレベルのコミュニケーションと上位コミュニケーションの間に不一致があることである。

コミュニケーションは単一のレベルで起こるのではなく、必ずメッセージに意味修飾(文脈、ことばの内容、声の調子、身体の動きなど)が加わる(「いやです」といいながらすり寄るというような)。「あなたのいうことがよくわからないのですが」というのは「わかるように説明しろ」というメッセージになる。また、沈黙や応答しないことは強烈なメッセージになりうる。

二人のコミュニケーションを考える。一方がコントロールし、もう一方はコントロールされる。同じレベルでの主導権という意味ではなく、二人の関係の定義づけをコントロールするということ。つまり二人のコミュニケーションがどうあるべきかということを決めている人がどちらかということ。

同じレベルでのコミュニケーション行動は、対称的なもの(同じ型)と、相補的なもの(補い合う型)の2つに大別できる。この型を決めようとするために、人は策動(maneuver)を使う。一段上位のレベルから、二人の関係の定義づけをコントロールしている場合を「上位相補的(metacomplementary)関係」という。「夕食何にしようか」に対して「あなた決めて」と言った方が上位になる。つまり誰が決めるかについては私が決めるということだから。

「あなたに自発的に反応するように指示する」というのは矛盾した意味修飾をもつラッセル型のパラドクス。反応すれば指示に従ったことになり、自発的ではなくなる。反応しなければ自発的に行動しなかったことになる。いずれにしても「負ける」。ということは矛盾した命令を出す方は常に「勝つ」。「私ではなく、あなたが病気を治す。そのために支援します」これは善意のように見える。しかし、同時に上位相補的な(勝つための)策動でもある。それを意識的に使えるかどうか。

  • 以上、本の内容と輪読会で聞いたコメントを向後が自分なりにまとめたものです。