KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

TCシンポジウム97

 今年もテクニカルコミュニケーター協会主催のテクニカルミュニケーション(TC)シンポジウムが工学院大学で開かれた。二日間にわたって分科会や研究発表が行われた。

分科会「メディアに適した表現とは?」

 私は分科会の話題提供として、「教育工学から見た電子メディアのデザイン」というタイトルで話した。そのあらましは、次のようだった。

教育工学のメッセージデザインという研究領域で、デザインに関する原則がいくつか提案されている。マニュアルなどのデザインにもこの知見を活かすことができるので、注目したい。

ということであった。

 私に対する質問は一件あり、それは、「最初からスクリーンで読んでもらうような文体の開発が必要」という私の提案に対し、それは具体的にはどういうものかということであった。これに対して私は具体的な答えを持っていないが、たとえばホーンの『ハイパーテキスト情報整理学』(日経BP社)で提案されたような、テキストのブロックは参考になるのではないかと回答した。

 電子メディアでは、記述の詳しさをコントロールしたり、概念的説明と具体例の提示の順番を変えたりできる。これらの機能を活かすためには、元のテキストブロックが互いに膠着しているのではなく、できるだけ独立していることが望ましい。このことが長期的に見て、電子メディアにおける文章のスタイルに影響を及ぼしていくのではないかと考えられる。

アメリカの作文教育

 分科会「電子空間におけるミュニケーションマナー」の話題提供者の一人であった入部明子さん(つくば国際大学)はアメリカの作文教育を研究している。名刺を交換し、資料を送ってもらえるようにお願いした。

 彼女の話の中ででてきた、推敲の授業の一例がおもしろい。作文を書かせたあと、それをクラスの中で、ひとつあたり45秒(!)で読み、次々と回していくのである。こんな短い時間でも読むことはでき、評価もできるし、このように誰かに読んでもらうことが推敲を促進するために効果的であるということであった。

認知心理学研究者からの研究発表

 認知心理学研究者からの発表もコンスタントに一定の割合を占めるようになった。「文章理解を促進する具体化情報」の谷口篤さん(中部女子短大)、「口頭による説明のわかりやすさについて」の小松誠・岸学さん(学芸大学)、「わかりやすい説明と有効な説明」の邑本俊亮さん(北海道教育大学)などである。

 これからはこうした実験的研究を、その知見を実際になにかに応用して効果を上げた実例に展開していくことまでをフォローした研究形態が求められていくことになるだろう。これは教育工学がその枠組みとして取っている、研究と開発ということにつながるのである。

資格試験とそれから考えたこと

 TC協会では、テクニカルコミュニケーターの資格試験を1998年の3月に実施するように準備を進めている。このようにTC技術が社会に認知されるようになれば、だんだんと大学のカリキュラムにも浸透していくだろう。こうした内容を大学のほうで先取りしていくことこそ必要なのかもしれない。