KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

自己啓発セミナー

 自己啓発セミナーが話題になっている。TOSHIという人がそれによってすっかり変わってしまったというので、ファンがびっくりしている。X-JAPANというのを私はよく知らないのだが、テレビで見る限り、派手なロックミュージシャンから「いい人」そのままの現在の姿への変身は確かに衝撃的だろう。

 今回の件で、自己啓発セミナーというのは連綿と続いているんだなあと再認識した。そうしたものは私が大学院生だった15年前にすでにあった。ある自己啓発セミナーが私のいた心理学科で大流行したのを覚えている。心理学科の学生、院生が次々とそのセミナーを受けて、新しい自分を見つけたといっていた。この種のセミナーは一度受講すると、知人・友人をうまく勧誘する(エンロールメントと呼ぶ)ことによって「あなた自身が変わった(=成功した)」ことの証明としている。次々とセミナー受講生を獲得していくための巧妙なシステムである。

 例に漏れず、私も友人からセミナーを受けるように勧誘された。「生き方がまったく変わるから」と説得された。実際その友人は以前とは変わったように見えた。セミナーについてはまったく知識がなかったので、なんとなく胡散臭いとは思いながらも、説明を受けるだけならと会場に行ってみた。説明する人はみんな目をキラキラさせて、いかにこのセミナーを受けることで人生が変わるかということを熱心に説いた。その内容に不審な点はなかったが、参加費が高いので、やはり断ることにした。確か10万円くらいだったと思う。しかし、説明員は「人生がすべて変わるのだからそんな金額は安いものだ」と勧める。それを無理いって断った。

 心理学専攻の学生が次々とセミナーにハマるくらいなのだから、一般の人はもっと抵抗力は弱いことだろう。セミナーの中で、講義、討論、告白、ロールプレイ、ゲーム、カウンセリングなどさまざまな作業をすることによって確かに人生観は変わるし、それを可能にするテクニックとノウハウをセミナー会社は蓄積している。だから本人がそれで満足すれば問題はない。一般的に高額なセミナー参加費も本人が納得していれば干渉できない。しかしたいていのセミナーはエンロール(勧誘)のシステムを作り、エンロールできない人はダメだという暗示を受講生にプログラムしていることを知っておくべきだろう。

 私はその時のセミナーを断ったが、その後5年ほどたってそれとはまったく別のグループワークに参加することになった。偶然の巡り合わせである。それはエンロールメントの義務もなかったし、参加費も3日間で3万円ほどだった。リーダーは精神科医で、新しい自分やもう一つ別の生き方を見つけるためのさまざまな手法を繰り出して見せてくれた。

 そこでわかったことは、人間というのは少しでも変わりたいという気持ちがあれば、あっけないほど簡単に変わるということだ。そしてたいていの人間には変わりたいという願望があるものだ。何がきっかけになるのかは多少の個人差がある。しかしさまざまな手法を試せば自分にあったものをきっかけにして変わる。見事に180度変わる。そのグループワークが終わったあとは、本当に見るものすべてが鮮やかに変わって見えた。そこら辺にいる人みんなを抱きしめてあげたいという気持ちになった。その劇的な効果は高々1週間ほどで消えるのだが、あのときのすばらしい気持ちは今でも生き生きと思い出すことができるほどだ。

 だからTOSHIという人が、なぜマスコミの餌食になるだけのテレビ出演をするのか、という気持ちが少し想像できる。彼は主観的にはまったく新しい生を生きているのだ。あの落ち着きに満ちた態度は「あなた方は何も知らないのだ」という思いに裏付けられている。MASAYAという人が、客観的に見ていかに「くわせ者」であるとしても、TOSHIにとっては新しい生き方を示唆してくれたグル(指導者)であり、彼にとっては「救われた」という感謝の気持ちでいっぱいなのだ。それが今の彼の行動を支えているはずだ。