KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

教育心理学会@駒場/大学オフ

 9/16(土)〜9/18(月)の3日間に渡る教育心理学会に出てきた。会場は東大駒場。このキャンパスには行ったのは初めて。緑が多いのが印象的というか、うっそうと茂っているのでちょっと暗い感じ。裏門から入ると、半分朽ち果てたような木造建築(管理人が住んでいるのだろうか)があったりして歴史を感じさせる。

 今回は富山を出るときに、プログラムを忘れてきてしまった。来る前には「このシンポジウムとあの発表を聞いて」などと印をつけていたのだが、それを忘れてきてしまうと、「まあいいか、会場に行ってから決めよう」と考えていい加減になる。そのおかげで聞き逃したものがいくつかある。受付に行って「プログラムくれませんか?」と頼んだのだが、「500円です」と言われたので「じゃ、いいや。ちょっと見せて」。「まったく学会はケチだよな。プログラムはこんなに山積みになっているのに」と知人にぶうたれたら、「500円を惜しむ、キミの方がケチだ」と言われた。それもそうだ。

 いくつかメモ。プログラムがないのでシンポジウムの名称などはいい加減。
佐藤達哉さん「モードII心理学=現場心理学」

 モードII心理学をやるにあたっての4つのポイント。

  • 事例は一回きりだが、その一般性をどう担保するか。
  • エスノグラフィーだけではなく、それを確認できる記録メディアを残しておく。
  • 1種過誤(ないものをあったと言ってしまうエラー)をどうやって低減するか。「おてつき」をしないこと。
  • 理論的な記述。さまざまな事例を串ざしするようなもの。

■鈴木栄幸さんの「アルゴアリーナ」(相撲プログラミングゲーム)

 2人の子供が組になって、強い相撲プログラムを作っていく過程での会話を分析している。プログラミングに熱中することを「オタク」になる過程として、警戒していることや、単純なプログラムでも勝てばいいという考え方と(つまり活動をゲームとみなすこと)、単純なプログラムで勝ってしまうことを恥とみなす考え方(つまりプログラミング活動とみなすこと)の対立など、すけてみえるので非常に面白い。なんか初めて面白いと思えるようなエスノグラフィーに会ったような気分。しかし、それにしても、「だから何?」(←たぶんここが分岐点)。いや、面白いし、示唆的でもあるんだけど。その文脈作りや、モードを変えるにはどう介入したらいいかというところまで踏み込みたい。

 前ふりで解説してくれた、エンゲストロムの「道具、問題、コミュニティ、主体」の話は役に立つ枠組み。まず組織のデザインがあって、次に活動のデザイン、最後に道具のデザインが決まるということ。確かにそうなんだけれど、現実場面では、道具のデザインから、活動のデザイン、最後に組織のデザインにという逆の方向性もあるような気がする。たとえば、いままでメールを使っていなかったグループでメーリングリストを導入したときに何が起こるか。活動が再デザインされたり、最後には組織の変化も起こるのではないか。

■「追試をやろう」シンポジウム

 卒論で追試をやろう、それを公開しようと言うのには賛成。私のところでは卒論ではちょっとできないので、心理学の実験演習の授業でできないか考えている。オリジナルデータのホームページでの公開は、今年からでもできる。

 臨床心理学や医学系では、毎日が追試をしているようなものだという。それを言われれば、教育活動もまた毎日が追試だ。毎週の短期の追試もあるし、1年ごとの長期の追試もある。それはどちらも常に変化している。とりわけ新しい試みをした次の年は、慣れのためかあまりよくない。それで常に新しい試みをしなくてはならないわけだが、それは厳密な意味での追試ではない。また通常統制群が設けられないことも実験計画からは外れる。このあたりは考えるに値する。

 効果サイズやメタ分析の話も出た。CAIのクラスと通常クラスの成績のメタ分析研究などもあるが、そこで使われたCAIの質や方法、使われ方などを全部捨象してしまってメタ分析にかけるというのは、よく考えると乱暴な話だ。だからメタなのかもしれないが、やはりCAIクラスで何が効いていたのかという、質的な分析は必要だろうな。まあ両方とも必要と言うことだ。その意味で、渡邊さんが言っていた「データを出す前に研究者は実は答えを知っている」というのは示唆的。シンボリックな意味でのデータ。シンボルデータを支えるデータは表には出ないが、蓄積されているということ。またそれがなければ研究論文は書けない。

■大学オフ

 はじめは「大学の授業実践」メーリングリストで呼びかけて、こじんまりとやろうと考えていたのだが、このページで宣伝したら、当日参加の方もあって(こちらからお誘いした方も)、最終的には15人にもなった。細かいことは書かないけれども、大変楽しかったです。とりわけ、下北沢で案内していただいたMandanaさんには、どうもありがとうございました。

 はてさて、大学教育をまじめに語るという目的は果たされたのかどうか。来年の教育心理学会(@愛知教育大)で、「心理学授業の方法、工夫、ネタ」というような自主シンポを開こうという相談も滝澤さんとしているので、話題提供をしたいという人は連絡ください。話題提供者が4人ほど集まったらやろうかな、と。