春木豊先生の最終講義。人柄が良く現れた、暖かい講義だった。行動主義から、強化理論、観察学習を経て、「人のやらないことを研究する」というポリシーで研究をしてきた、その到達点。ちょっとまとめておく。
人間科学的アプローチとは:
1. ホリスティックであること: 水がH2Oであることを私たちは知っているけれども、Hを調べても、Oを調べても、水の性質は出てこない。水を水としてとらえることが必要だ。
2. ホログラフィックであること: 「全体は部分を含む」のではなく「部分が全体を含む」ということ。つまり、どんな部分にも全体の設計図が組み込まれていること。私たちの行動には、自然も社会も、精神も身体も、その全体像が組み込まれている。そのように行動をとらえる。
3. 因果は相互的であること: 「行動は、人と環境の関数 B=f(P,E)」(Levin)でもなく、「行動は、人と環境の相互作用の関数 B=f(P←→E)」でもなく、「人、環境、行動はお互いに相互的な因果である」(Bandura)という立場を取る。
その上で、「身体心理学」というものを提唱する。
その定義: 動きの心理学である。動きの機能を追求する。動きを独立変数とする。動きと心の関係を追求する。
つまり、心がまずあって、その結果動きが起こるのではなく、動きが心に及ぼす影響を重する。「喜んで飛び上がった」のではなく「飛び上がって喜んだ」なのだ。まず動きが根元的にある。
おそらく、進化的には、動きから心が発生した。Wundtは五感と身体感覚は心のベースであるといっている。認識以前である「直観や気分」を重視する。体験と情報の交流。知情意のバランスが重要。リアリティとはつまり、身体感覚である(ここから心身一元論につながる)。