「山内研究室::Blog」で,「教育実践を論文にする壁」(http://blog.iii.u-tokyo.ac.jp/ylab/2010/09/post_259.html)として,次の3点が挙げられている.
- 新規性:教育実践のデータベースが整備されていないので新規性を主張することが困難
- 妥当性:確実なデータ収集と信頼性の高い分析が必要
- 研究の筋立て:研究の「問題・目的・方法・結果」が対応していないことが多い
これより以前に,教育実践をどのように記述するかというテンプレートもまだ整っていないように思う.伝統的な「序論,方法,結果,考察,結論」の章立てでは,うまく実践の記述ができない.
実践の記述に関しては,次のようなテンプレートが有効なのではないかと思っている.これは,R.E.HornのInformation Typesの枠組みを利用している.
- 概念:教育実践を特徴づけるコンセプト
- 原理:教育実践を設計するにあたり,そのよりどころとなる原理
- 構造:教材や時間,学習者の人数,教授者・スタッフの配置,学習環境などの静的な記述
- 手順:介入・プログラム・課題・活動・フィードバック・評価などの動的な記述
- プロセス:教育実践の結果,そこに参加した人々がどのように動いたか,学習したか,変容したかの記述
たとえば,自動車のエンジンについて記述することを考えてみよう.
- 構造:どの部品がどのような配置になっているかの静的な記述
- 手順:どのタイミングでガソリンを噴霧し,点火するかのプログラム
- プロセス:手順の結果,どのようにしてエンジンが回転するかの動的な記述
このように,何重かの記述が必要で,それがまとまって「エンジン」というものの理解につながる.
教育実践では,事前テストと事後テストの成績比較をして,そのことをもって教授プログラムの有効性の証拠としたりする.それは,いわば,エンジンの燃費の良さを主張しているわけだ.
しかし,燃費を改善するためには,構造や手順をいじり,その結果プロセスが改善されなければならない.そこまで検証するためには,上で提案したような多重の記述が役に立つだろう.