KogoLab Research & Review

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教育心理学会総会2日目ナイトセッション:質的研究の理論的サンプリングにおける理論的飽和度(豊田秀樹)

遅くなったけれども,教育心理学会総会の自主シンポジウム「質的研究の理論的サンプリングにおける理論的飽和度」についてメモしておこう.これは,豊田秀樹氏(早稲田大学)が講演したもの.

質的研究法を使った論文が増えつつある.これは,インタビューや自由文記述を元データとして,それをあるまとまりの単位(カテゴリー)に分類した上で,それらの関係や構造を考察するという手続きを使う.

問題は,それらのカテゴリーが出尽くした状態(理論的飽和)であるかどうかを,どのようにして判定するかということである.経験的には,インタビュー人数を30人もすれば飽和に至るということが言われているが,あくまでも経験則である.実際には,研究者自身が「飽和した」と感じているので,そこで確信を持って打ち切っている.しかし,論文を読んでいる第三者にはその感覚が伝わらない.

豊田氏の提案は,どの時点でも,もう1人分の分析を行ったときに,すでに出ているカテゴリー数と新しく出たカテゴリー数を知ることで,その時点での飽和度(すでに出たカテゴリー数/総カテゴリー数)を推測する方法を提示したものである.

式は書かないが,N人目までのインタビューで得たカテゴリー数と,N+1人目のインタビューで得た,既知のカテゴリー数および新規のカテゴリー数が分かれば,その式に当てはめることによって,未知を含めた総カテゴリー数が推定できる.それを使えば,その時点での飽和率を推定できるということである.

この推定値を使えば,論文に単に「飽和したと判断した」と書くのではなく,「何%の飽和率と推定できたので,飽和したと判定した」という根拠を書くことができる.