KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

S.K.ネトル・桜井邦朋「独創が生まれない」、永田親義「独創を阻むもの」

独創が生まれない―日本の知的風土と科学

独創が生まれない―日本の知的風土と科学

独創を阻むもの

独創を阻むもの

二冊とも日本の研究者社会(おもに大学)の現状を欧米のそれと比較して、独創が生まれにくい日本の風土や教育に対する考え方などを浮き彫りにしている。

たとえば、研究の出発点。欧米では科学の研究は究極的には孤独な「密室」での作業とされる。流行を追うのは孤独に耐えきれないからだという。これは永田では、次のように補強される。研究とは個人の興味から出発するものだ。したがって、研究費をもらうために「役に立つ研究」をテーマに取り上げることは拒否される。また長い学問の歴史の中で、役に立つ研究が、実際に役に立ったことはない、と。

また、専門家意識について、ネトル・桜井はこのように言う。アメリカでは、自分の専門について何か言える場合は、その周辺分野に対する広い理解の上に立つ。科学はひとつであり、自分の専門を次々と変えていくことは当然と見なされる。「現在の専門」(present specialty)ということばには、明日はまた違うことをやるという期待感がこもっている。しかし日本ではひとつの分野を専門とし、一種の修行の道とするのが道徳的だと考えられている。

大学の先生をやりながら、こういう本を読むのは、他人が自分をどうみているかを気にせずにはいられない日本的気質をさらけだしているようなものだ。しかし、自己批判しすぎて暗くなるよりも、研究を進めていく方法のヒントを見つける方が楽しいだろう。たとえば、アメリカでは、年に二、三本の論文を出すのが当然だが、全部が優れたものだと考えられているわけでもないこと。レフェリーとの論争をめんどうがると、慎重になりすぎて、論文を作る機会が減ること(すんなり通る論文には独創性が少ない、とも)。よい表題を決めるまでに十日間もかかったりすること。こうしたことを知ることで、研究を進めていく元気が出てくる。特に、最初の論文のハードルが高い大学院生(私もずいぶん苦労した)には、一読をお勧めする。