KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

ワークショップ「説明文研究の課題と方法」

去年、沖縄での日本心理学会大会で初めて開いた、説明文研究についてのワークショップの第二回目を持ちました。参加者は、前回の倍の22人(発表者含む)で、大入りとはいえないまでも、最終日の最後の時間帯にしては、盛況でした。

プログラムは、話題提供を、東京学芸大学の岸さんと北海道教育大学の邑本(むらもと)さんからしてもらい、続いて質疑応答に移りました。話題提供のお二人には、「これからどんな研究をしていけば実りがあるか」ということをなるべく具体的に話してほしいという、わがままな注文をしておいたのですが、期待を裏切らない、中身のある話を聞くことができました。

岸さんと邑本さんの話

岸さんの話題の中心は、「テキストの学習」と「テキストからの学習」を区別して調べていくことがいいだろうというものでした。テキストの学習とは、書かれてある内容そのものを理解するということです(このようにして得られた頭の中の表象を「テキストベース」と呼びます)。一方、テキストからの学習とは、テキストベースを基礎にしたうえで、その内容を実際に利用して、問題解決をしたり、推論したり、シミュレーションをしたりすることです(この表象を「状況モデル」と呼びます)。

文章理解の実験で、最もよく使われてきた指標は、読んだ文章の記憶再生や理解度テストでしたが、これらの指標は、被験者が生成したテキストベースの様子を反映したものでした。これからの研究では、読まれたテキストを被験者がどのように利用していくかという「状況モデル」のレベルでの検証が必要になっていくということです。つまり、文章を読んで理解するだけでなく、それをどのように活かしていくか、利用していくか、というところまで明らかにしたいわけです。そうすることによって、読むだけでなく利用する文章の代表格である、マニュアルにおける文章表現の工夫などに有効な知見が得られることが期待できます。

邑本さんの話は、表面的に「わかりやすい説明文」よりも「役に立つ、有効な説明文」を作り出したり、そもそも役に立つ説明文とはどんなものかを明らかにすることが大切だ、ということを主張したものでした。「わかりやすさ」が注目されているという背景には、これまでの説明文が(そのなかでもとりわけマニュアルが)非常にわかりにくいものであったことがありますが、邑本さんは、さらに、わかりやすさだけではなく、有効な説明文が大切だと言うわけです。

この邑本さんの「有効な説明文」の注目は、岸さんの発表での「状況モデル」を作り出すような説明文への注目に、ちょうど合致しています。

もちろん、有効な説明文への強調は、「わかりやすさ」を軽視してよいということではないと思います。私の考えでは、表面的な説明文のわかりやすさや、導入部分での、おもしろそうだなと思わせるような魅力は、読者の「読むことへの動機づけ」を引き出すような、別の働きをしており、これもまた重要なことなのです。

邑本さんはまた、今後の説明文研究に言及して、様々な種類の説明文があるので、その種類ごとに研究が進められて行くだろうと言っています。このことは、アメリカの教育工学研究者が、「知識のオブジェクトとその伝達方法」という枠組みで、研究を進めていこう、としている状況にちょうど合致しているように、私には思えます。

来年は

ワークショップというのは、シンポジウムや講演会とは違って、同じ領域を研究している研究者が、お互いの情報を交換する場です。この意味で、今回のワークショップは、参加者にとっても、役に立ったのではないかと思います。発表者を二人に厳選して、質疑の時間を充分とり(それでも終わりの時間を超過したのですが)手を挙げた人全員に質問してもらいました。これはよかったと思っています(時間切れで質問を受け付けきれないセッションが多すぎると、日頃、思っているので)。

さて、来年は。来年もぜひやりたいですね。テーマは、説明文の生成過程(作文)とその支援、あるいは、説明「図」の話も今回ちらっとでてきていましたので、それでもおもしろいかもしれない。いずれにしても、やりたいですね。