KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

北陸心理学会に出てみて〜心理学を考え直す

 先日金沢大学で開かれた北陸心理学会の大会に出た。数年前に会員になってから、ずっと不義理をしたまま大会には出たことがなかったので、今回が初めての出席である。今回も発表するものがなければ出るつもりはなかったのだが、コンピュータ利用のワークショップをやるので何か話題提供をして欲しいと頼まれて参加することにした。

 そのワークショップの前半で話題提供をして自分の役目を終えた。後半は、金沢大学の院生によるデモンストレーションであった。デモの内容は、CD-ROMデータベースの使い方、WebによるNACSISのデータベースの紹介、SPSS統計ソフトの実例デモ(分散分析、因子分析)、心理実験用ソフトSuper Labの紹介、98用タイマーボードのデモなど、実に盛りだくさんであった。院生が分担してプレゼンをしたのだが、なかなか見事であった。

 院生がチームワーク良く、しかも日頃の仕事ぶりをうかがわせるような水準の高いプレゼンをしているのを見て、うらやましくなった。博士課程のある大学院ならではのことでもあるし、指導教官のマネジメントのすばらしいさもあるに違いない。聞けば、金沢大学で(学内学部による)連合大学院ができたのは5年前ということだ。自分の所では修士課程を終えて研究を続けようとする学生の行き先に悩んでいるという状況(→chiharuNews No.16)があるので、こういうのを見るとよけいうらやましく感じる。

 富山大学では理工学研究科を作るときに、その末席に情報関係の博士課程を作るという案があったが、教育学部とのつながりの悪さからこの案はつぶれた。もう一つ、文科系学部で博士課程を作る話が進んでいるようだが、これは教育学部には声がかかっていないようで、情報が流れてこない。確実な話では愛知教育大を中心とした連合大学院の案が進んでいる。実現はかなり先のようだが。しかし、連合大学院を作るのであれば、地理的にも北陸三大学の大学院を作るのが良かったのである。しかし、学生定員を減らし、学部改組の真っ最中である今、この話を進めるには時間的、精神的余裕がなさすぎた。

 まあ、こういう話は自分一人でできるものでもないし、ああだこうだいっても仕方ない。自分ができることは(福井大の梅沢先生がいうように)ドクターを取っておいて、いざというときにいつでも出動できる態勢を整えておくことである。

 この会合での収穫は、金沢大の吉村先生と知り合いになれたことだ(同じ所属の積山さんとは早稲田大の牧野先生を通じて何度か会っている)。吉村さんは、何か北陸三大学で共通にできることがないだろうかと言っていた。たとえば、心理学の実験入門や、レポートの作り方などの講習を共通にできたらいいのではないかということだ。これは実現性があるし、なにより北陸心理学会の事業として意義のあるものになる。富山大の心理学のスタッフは人文学部教育学部に分散しており、なかなかまとまる機会がない。北陸心理学会がその仲介になるとすれば、そういう役の立ち方もありうるだろう。

 私は自分の研究領域として教育工学の方にかなり重心を移しているが、そうすればするほど、基礎科学としての心理学の重要性を感じている。心理学の中にどっぷり浸かっているときには気がつかなかったのであるが、科学としての心理学が悩み、悪戦苦闘しながら洗練してきた方法論というのは、学んでおく価値が高い(私の院生時代はただひたすら方法論に悩んできた時代だったと振り返ってみて思う)。教育工学の理論と研究方法論のルーツはそのほとんどが心理学から生まれてきたものである。研究方法論で悩まずにこの領域にはいってきた研究者の仕事は、私にはたいてい薄っぺらに見えてしまう。そういう研究が比率として多く見えることがこの領域の薄っぺらさを感じさせる原因だと思う。

 北陸心理学会に出てみて、今の自分にとっての心理学の意味を考え直したことが大きな収穫であった。