KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

良いタイトルをつける

 きのうのNHK番組「クローズアップ現代」は本が売れないということを取り上げていた。一日に出版される新刊本は平均250冊(!)なんだそうだが、去年から二年連続で売上高は減少しそうだという。本の時代も頭打ちになってきているということか。市場が成熟したということか。本を読む時間が少なくなっているということか。

 その一方で、百万部を越すベストセラーも出ている。その秘密のひとつは、タイトルの付け方にある、ということで草思社の「タイトル会議」を取り上げていた。私の「読んでみた」ページでも取り上げたアルベローニの「他人をほめる人、けなす人」は百万部を越す売り上げを得たが、その原題は「楽観主義者」というものだった。確かにこれよりは「他人をほめる人…」の方が買って読んでみようという気をそそるだろう(その後、このタイトルをまねた「○○する人、しない人」という本がたくさん出てきた)。この本は、文体も凝縮されているし、けっして一般向けのものではないと思うが、良いタイトルのおかげでたくさん売れたのだろう。

 一度本を買ってしまえば、たいてい読むものだ。ちょっと文体が硬くても、それは少し読むうちに慣れるし、書いてある内容そのものに価値があり、おもしろいものであれば、読むものだ。その意味では、タイトルはARCS動機づけモデルの「A-注意(Attention:おもしろそうだなあ)」に対応することになり、ないがしろにできない重要な部分であるといえよう。草思社はそれを忠実に実行しているわけで、その結果がミリオンセラーということになる。

 そんなことを考えながら、「タイトルの良さとは何か」、「どうしたら良いタイトルをつけられるか」というのはおもしろいテーマになるんじゃないかと思う。内容を凝縮したものが要約で、要約の要約がタイトルになるわけだが、タイトルにはそれだけではないものが含まれる。つまり、抽象性と具体性がほどよく入り交じっていなくてはならない。「楽観主義」は抽象語で、「ほめる、けなす」は具体語だ。

 心理学の論文は「○○における○○の○○に及ぼす影響」という形式がよくあり、これを読んだだけで実験計画が思い浮かぶという意味では最善のタイトルだ。しかし、面白みはない。私が好きなのは「学生はなぜ質問をしないのか?」というようなタイトル。読んでみたいと思わせる論文タイトルだ。具体的なのだ。

 日記のタイトル(一行コメント)も、重要だ。少なからずアクセス数に影響を与える。おもしろくて核心を突いたタイトルを考える訓練としてやってみるといいかもしれない。

 「天声人語」などの新聞コラムにはタイトルがない。あれはタイトルを考える苦労を知っている人が、それをしたくなくてさぼっているのだと思う。