KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

これからのエスペラント研究をどうするか

今年の研究発表会は、結局、発表申込者がなかった。そこで、「これからのエスペラント研究をどうするか」というテーマで公開討論会を企画した。

臼井裕之さん、北川久さん、山本真弓さんの3人に15分で話題提供をしてもらい、残り30分を討論の時間とした。別の機会に詳しい報告を書こうと思うが、簡単にメモしておく。

3人の話はどれも非常に興味を引く内容だった。臼井さんは、「言語帝国主義研究会」の例を引いて、エスペラント研究を盛んにしていくためには、地道に研究活動が必要なことを主張した。

北川さんは、ポスト構造主義言語学の流れに即して、これまでエスペラントを言語的構造から研究してきたけれども、これからはそれに加えて、エスペラントがどういう利用をされているのか、社会との関係はどうなのかといったことが研究の焦点になるとした。とりわけ、英語では英語のネイティブというのが絶対的な権力を持つのに比較して、エスペラントではネイティブ(という人たちがすでにいるわけだが)が権力を持つことはなく、その点が決定的な違いであるというような指摘が面白かった。

山口大学の山本真弓さんはつい最近エスペラントを始めたばかりという立場から、エスペランチスト共同体そのものが研究対象としても面白いということを指摘した。エスペラントの共同体というのは、領土を持つような集団ではなく、出入りの自由なゆるい共同体である。近代の世界が、互いに領土を奪い合い、戦争や紛争を繰り返してきたという歴史を考えると、このような領土なき共同体という存在は非常にユニークなのだという。

3人の話が非常に面白かったので、続いて行われた討論も白熱した。その中には、朝日新聞の記者さんもいて、質問を投げかけてくれたので、さらにやりとりが活発になって、終了時間を15分もオーバーしてしまった。発言者にはみんな「1分で発言してください」と頼んだほどだった(もちろん「1分で」というのはレトリックだが)。

企画者ながら、非常に充実した会になったと思っている。詳しい報告をまとめられたらいいなと思っている。