KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

佐藤郁哉『実践フィールドワーク』

組織と経営について知るための実践フィールドワーク入門

組織と経営について知るための実践フィールドワーク入門

これは良い本だ。卒論もフィールドワークから始めて、テーマを決め、トライアンギュレーションまで持っていくというのがいいんじゃないだろうか。それはちょっと大変なワークになるかもしれない。しかし、単一の方法論でひとつのトピックを切っていくだけでは不十分であるような時代になっているのだ。

フィールドワークのおもしろさはリサーチクエスチョンを見いだすところにある。しかも、ワークを進めていくにつれて次々と新しく作り直される。そのプロセスに意味がある。その点で、サーベイ(調査)は事例(データ)は多いのだが、実は調べられる項目は限定されている。フィールドワークは事例は少ないものの、調べられる項目は多い。実質的にはフィールドワーカーが観察し得たものすべてが調査項目になる。

フィールドノーツは、箇条書きではなく、ストーリー性のあるひと続きの文章で書いていき、小さな物語からしだいに大きな物語へと、書き込んでいく。狭義のフィールドワークは、参与観察・現場観察と丹念な聞き取りだが、広義のフィールドワークは、加えて、サーベイ的な聞き取り、質問票によるサーベイ、心理テストの実施、文書資料の検討、統計資料の分析、文物の収集というところまでカバーされる。物語を書くにしてもシステム的なものを想定しているようだ。

この点で、グラウンデッドセオリーアプローチは狭義のフィールドワークと位置づけられるだろう。切片化・ラベル化・概念化からシステムを描き出すという意味では合致するが、同種の人たちからの聞き取りを重ねることで理論的飽和をゴールとするのに対して、広義のフィールドワークでは聞き取りの対象を広げるし、データの種類も問わない。その中でより大きなシステムを描き出そうとしているようだ。

望ましい民族誌とは、科学レポートと、文学作品の両面を持ち、しかもその二つに緊張関係があるものだという。そのためにはやはり、本一冊分のボリュームが必要だ。