KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

アウトライナーはなぜ使いものにならないか

 アウトライナー(あるいはアウトライン・プロセッサ)を使って文章を書いている人はいったいどれくらいいるのだろうか。

 アウトライナーというのは項目を階層的に扱うエディタで、あるレベル以下の項目を隠したり表示したりできる。その機能によって文章全体の構造をチェックしながら、書き進めることができる。つまり上から下への(トップダウンの)注意を促すことによって、だらだらと続くだけの文章ではなく、構造のかっちりとした文章を作ることができるというのがウリである。

 最近のワープロソフトにはアウトライン機能が組み込まれていることが多い。私が愛用しているクラリスワークス(v.4)にもアウトライン機能が付いている。しかし私自身はアウトライン機能を使わない。学生さんには、アウトライン機能をなるべく使って文章を書くように勧めているというのに無責任な話である。私がアウトライナーワープロのアウトライン機能を使わないのは、それが使いづらいからだ。とまあ、一人のユーザとしては、使いづらいから使わない、ということで一件落着なのだが、このトピックも煎じ詰めれば、卒論や修論のテーマになりうる(と考えてしまうのは職業病か)。

 アプローチは次のようなものが考えられる。

 まず1つ目は、アウトライナーには適切な使い方、あるいはコツというものがあって、それをユーザが知らないために使えないということである。しかし、アウトライナーのマニュアルを見ても、その正しい使い方は書いてない。たとえばアウトライナーの1つ「Acta Pro」には冒頭の紹介で「アイデアを思いつくままに入力し、次にそれを系統立てて整理することにより、論理的な骨組みを持った、優れた文章・プランが簡単に作成できます」とあるだけだ。ユーザはそれを具体的にどうやるのかを知りたいのだ。

 アウトライナーに限らず、マニュアルには「どんなことができるか」ということは書いてあるが、「なぜそうするのか」ということは書いていない。この不満が、いわゆる市販のマニュアル本が全盛を極めている一因となっている。ともあれ、「私はアウトライナーを使いこなして能率を上げている」という人がいたらぜひそのヒントだけでも教えて欲しい。

 2つ目は、アウトラインソフトそのものが人間にとって良いデザインではないということである。つまり人間が文章を作り出す過程に対してソフトが適切に介入していないということだ。アウトライナーは構造がかっちりとしたものをトップダウンで書いていくには都合がいい。しかし、それであればテンプレートを使うだけで十分なのである。最近の作文過程の研究は、人間が計画と実行との間を行ったり来たりしながら書いている(つまり、書き進めては全体を見直し、その修正プランに基づいてさらに書き進める)ということを明らかにしている。それを考えに入れると今あるアウトライナーは少し単純すぎるように思われる。

 3つ目は、アウトライナーはそもそもこうした種類の文章(柔構造の文章と呼んだらいいか)の作成をターゲットにしていないということである。そうだとすればソフトに罪はない。こうした文章を書くための支援ソフトを新しく開発してもらうしかない。考えてみればアウトライナーは開発されてからずいぶんたつけれども大きな進展はないのだ。そろそろ新しいソフトが出てきてもいい頃だ。誰もやらないのならやってみたいチャレンジである。