KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

人の名前はなぜおぼえにくいか

テレビを見ていたら、たまたま「100人のモデルの名前を覚えられたら300万円もらえる」という番組をやっていた。チャレンジものの番組だ。

——100人か。ちょっと難しい課題だな。

それがけっこういい線までいったんだよ。70人くらいかな。チャレンジャーは学校の先生だったんだけど、僕だったら、15人がせいぜいだな。

——あなたは人の名前をしょっちゅう忘れているからな。自分のゼミ生の名前ですらときどき忘れるじゃないか。

いや、人の名前というのはもともと覚えにくいものなんだよ。なぜそうなのかを研究している心理学者がちゃんといるくらいで。

——へえ、人の名前が覚えにくいのはなぜなんだい?

パースペクティブ学習心理学』(北大路書房, 1999)という本の「名前の記憶」という章によるとだね…。人名は、特定の人物と一対一に対応しているからだということだ。対して「歌手」とか「アメリカ人」といった意味情報は多くの人物に共通するから、活性化されやすい。

——なんだその「活性化」というのは。

単語の記憶はお互いに関連の強いものは強く結びついていて、ひとつの単語が思い出されるとそれに関連した単語が次々に思い出されていくと考えられている。たとえば「リンゴ」と聞くと、もちろん「リンゴ」という単語が思い出されるが、それに関連した「赤」とか「果物」とかが思い出される。それを「活性化拡散」と呼んでいる。

——たとえばマイケル・ジャクソンの写真を見せると「マイケル・ジャクソン」という名前や、「歌手」、「アメリカ人」などが活性化されるというわけだな。

そのとおり。とりわけ「歌手」や「アメリカ人」はマイケル以外のいろいろな人に結びついているので活性化されやすくなっているのさ。ところが「マイケル・ジャクソン」という名前は孤立している。つまりマイケル・ジャクソンの写真と「マイケル・ジャクソン」という名前は一対一に対応している。それで、もし「マイケル・ジャクソン」という名前そのものを思い出しそこなうとなかなか出てこないわけだ。ちなみに「喉まででかかった状態」をTOT(tip of tongue)という。名前ではTOTが非常によくみられる。「マイケル・ジャクソン」が思い出せない場合は「ほら、あのアメリカ人の歌手の、わぉとかいってダンスのうまい…」という具合に活性化されやすいものがでてくる。しかし「マイケル・ジャクソン」という名前は記憶の中で孤立しているのでなかなか出てこない。

——人の名前を覚えるいい方法はないの?

それは私が聞きたいんだけど。