KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

カレン・プライア「うまくやるための強化の原理」

うまくやるための強化の原理―飼いネコから配偶者まで

うまくやるための強化の原理―飼いネコから配偶者まで

Karen Pryor: Don't Shoot the Dog!: The new art of teaching and training, 1984

すべての人たちがやって欲しいことを言い、言ったことは必ずやるようになっていれば、どれだけ多くのことが達成できるか、どれだけわずかの命令で済ませることができるか、どれほど早く信頼を築き上げることができるかは、驚くべきものがある。それは、強化による訓練の、最も複雑で困難な、そして優雅な側面である。

 私自身、行動主義の本を読むのは、私が大学生だったときに読んだ佐藤方哉さんの本(「行動理論への招待」大修館書店、1976)以来のことじゃないだろうか。行動主義心理学行動分析学と名前を変えながら、理論的にも応用的にも着実に発展してきている。この本はそのことを、親切に、そして具体的に説明する。

 原題は「イヌをぶたないで!---教えることと訓練の新しい方法」という平明で的を射たタイトルだが、邦訳では「・・・強化の原理---飼いネコから配偶者まで」となっており(なぜかイヌがネコになっている)、とっつきにくいばかりでなく、この著者は飼いネコと配偶者をいっしょくたにするのか、と読者から不要な反感を引き出しそうである。特に人道的な教育関係者、親、教師は、このタイトルを見ただけで「子供をネコ扱いするとはけしからん」と考えるかもしれない。しかし、タイトルは「子供をぶたないで!---教育の新しい方法」であると想像してもらった上で、すべての親、教育関係者、教師に読んでもらいたい本である。

 この本は、

  • どのようにしたら望ましい行動をさせることができるか(強化と強化スケジュール)
  • どのようにしたら望ましい行動を形成することができるか(シェイピング)
  • どのようにしたら最小限の命令で行動をさせることができるか(刺激制御)
  • どのようにしたらやめて欲しい行動をやめさせることができるか(消去)

 という原理と具体的な方法を伝授する。

 とりわけ、次のようなことは読者の目を開かせてくれるだろう。自称「生徒のことを考えている」先生が使う「体罰」や、体罰が禁じられているといって代わりに使われる「叱り」、「小言」、「脅し」といった方法は最も効果がない。強化は学習段階でのみ必要であり、いったん学習が成立したら、相手の予期できないときに強化することが効果的である。何が相手の強化子(好子)になるかをいろいろ考えることはトレーナーや教師の創造的な仕事である。教師と生徒の「コミュニケーション不足」とは本質的には、生徒に理解されない命令を乱発していることであり、教師によるいい加減な刺激制御によって生徒が弁別刺激と行動との関係を形成できていないということだ。生徒の心を理解しようとする前に、自分が適切にコミュニケーションしているかどうかを自問するべきだ。

 この本から他人の行動を制御する効果的な方法を学んだとしても(ぜひそうして欲しいのだが)、教師は自分が生徒をまるで「操作」でもしているように思い、うしろめたい感情を抱くかもしれない。しかし、教師が強化の方法を使っているということを生徒に明かす必要もないのと同様に(そうすれば必ず反感を買う---我々はことばと感情を持つ動物なのだ)、そのことにうしろめたさを感じる必要もない。なぜならば、生徒を強化して新しい能力を開花させることは生徒自身に喜びを与え、そして最も重要なことに、その喜ばしい結果を見ること自体が教師自身の行動を強化しているのである。つまり、強化の方法を上手く使うことは、あなた自身に喜びを与え、さらなる挑戦への勇気を与える。このことは、とりわけ「学習された無力感」にとらわれた教師を自ら救うきっかけになるだろう。

 だから、この本を読んだ人は何も言わずにこの科学的理論を自分の仕事と日常に応用すればいい。行動分析学は、未検証の仮説でも、臨床の一流派でもない。それは検証された理論と応用の集成である。また、行動分析学者たちは、強化の方法だけですべての問題が解決できると狂信しているわけではない。しかし、行動分析学を適用することによって最も確実に、かつ、最も効果的に解決できる問題が今そこにあるのである。