自分の書いた文章が国語の教科書に載るなんてことは考えてもみなかったが、そんなことも起こるから実際世の中はおもしろい。「現代のエスプリ」という割とマイナーな月刊雑誌のために書いた「留守番電話はなぜかけにくいか」という文章が、学校図書という教科書会社が発行している中学二年の国語の教科書に載っている。もちろん教科書向けに分量と文体は多少改変されてはいるが、内容はほぼそのままで収録されている。
その内容は、何のひねりもなくタイトルが示すとおり、なんで留守番電話ってかけにくいんだろうねということをいろんな角度から考えてみたものだ。自分としては学術論文のつもりで書いたのだが、教科書の単元は評論文である。そうか、こういうのを評論文というのか。逆に感心する。
ネタとしては「あいづち電話」というのが目新しいか。留守電に吹き込みにくいのはあいづちがないからだという仮説を立て、じゃあ自動的にあいづちを打つような装置を作ったら吹き込みやすくなるんじゃないだろうかと考えて、実験したものだ。それは、言葉の切れ目をうまく検出できなかったりで、失敗だったが、そんな失敗も文章に織り込んで書いた。こうしたことを精力的に研究している人もいるので、自動あいづち電話ができてくるのも時間の問題だろう。使う人がいるかどうかは別だが。
教科書の編集者がどのようにして載せる文章を探してくるのか知らない。もちろん定番の材料というものはあるが、目新しさを出したり、指導要領の改訂で変わっていく材料もある。それにしても「現代のエスプリ」までリサーチしているとは驚きである。たまたま編集者の一人の目にとまっただけのことかもしれないけど。編集者は全部で28人もいる。あるいは、割と冒険的な編集者集団だったのかもしれない。もくじを見ると、俵万智、池沢夏樹、星新一といった作家が並んでいる。
この教科書は去年(1997年)から使われ始めた。だから中学二年の子供がいたら国語の教科書をぜひ見て欲しい。といいたいところだが、おそらく私の文章はそこにはないだろう。なぜか。その教科書は十中八九、学校図書のものではないからだ。国語の教科書では学校図書様のシェアはとても低いらしい。
さて、教科書に文章が載るといったいいくらもらえるのだろうか。これはちょっと胸をわくわくさせる計算である。いくらシェアが低いとはいえ、全国の中学校で使われるのだから、それ相応の金額になるのではないか。ハワイに行こうか、それとも伊豆か。
正確には、「文化庁告示(なんか偉そう!)平成九年度使用教科書等掲載補償金額」というのだそうだ。それがきのうの郵便でやってきた。はたして金額は、
- 24,150円(税込み)
であった。
説明書きによると、この金額は文章の量とその教科書の発行部数によって決まる。私の文章の分量だと、
- 30万部で 151,200円
- 20万部で 104,475円
- 10万部で 57,750円
となっている。そしてこの教科書の部数は38,597冊(細かい!)だったので、この金額になった。実際には指導書の分の補償額も追加されて、
- 44,982円(税込み)
が振り込まれるとのことだ。しかし、ちょっとがっかりしたのは事実だね。
まあそれでも3万人以上の中学二年生に自分の文章が読まれていると思うと少しうれしい。願わくは、私の顔写真にいたずらがきをしないでほしいぞ。教科書といえば、いたずらがきをするのが楽しみだったものなあ。人間とは勝手なものである。