この風邪のしつこいこと。完全に直るまでいつまでかかるんだろう。
——本当に長引いているね。
医者に行ってきたよ。点滴してもらった。なんと、点滴を受けるのは生まれて初めてのことだ。
——40歳になって初めての点滴? よっぽど頑丈な体をしているんだなあ。
いや、まっさきに風邪をひいて、家族中にそれをうつすので奥さんからは非難ごうごう。どうも喉は弱いらしい。デリケートともいう。それを除けば頑丈な方かな。ちなみにまだ入院したこともないのだ。
——入院もないの? そこまでいくと、なんだかぽっくり逝きそうな雰囲気だな。
まあ、ぽっくり逝けたら一番いいのさ。それなら周りにもあまり迷惑をかけなくてすむ。
——子供が大きくなるまで死ぬなよ。
生きているのが楽しいので当分は生きているよ。しかし、点滴というのは不思議な感じだな。よく眠れたよ。
——点滴しているときに眠るんじゃない。
眠っちゃいけないのか? ふと目が覚めると、きれいな看護婦さんが横にいて、「点滴、もう終わりですね」とか言いながら、腕の針を抜いてくれた。なんだかすごく幸福だった。死ぬときはこんなふうに死にたいと思ったくらいだった。
——妙なヤツだなあ。
それにしても、いいかげんにこの風邪を完全に治さなくてはいけないので、今週は風邪退治週間とすることに決めた。
——うん。それがみんなのためだ。