KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

「分数ができない大学生」は確かにいる

——「分数ができない大学生」の検証実験はどうなった?

やってみたよ。私立の単科大学での「心理学」の授業を利用した。中間テストをやったので、その一番最後に分数の計算問題を入れて、解いてもらった。受験者数は241人で、男女比は正確には把握していないが8:2くらいで男性が多い。問題は次の2問:

  • (1) 3/7 ÷ 2/3 (分数を分数で割る)
  • (2) 2/5 + 1/3 (通分の必要な足し算)

その結果、誤答者数と誤答率は次の通り:

  • (1) 誤答 10人  誤答率 4.2%
  • (2) 誤答  8人  誤答率 3.3%

——やはり、間違える大学生はいるんだね。

分数の計算を間違える大学生はいるということは事実だ。特に(2)の計算では、分母同士、分子同士を足し算して、3/8 という答えを出した人が2人いた(0.8%)。通分を忘れているということだ。

——情けないことだな。大学生ともあろうものが。

うーん。そういう感じ方をする人は多いだろう。NHKの番組でもきっと制作者はそう感じたんだろう。だからわざわざ「分数のできない大学生がいる」という驚きの文脈を作った。

でも私は別の見方を取る。確かに分数の計算ができない大学生はいるけれども、それは文科系の大学でも5%以下の学生にすぎない。それがそんなに驚くべきことだろうか。100%の学生が分数の計算ができなくてはいけないのだろうか。私は、確率的には5%以下の学生が分数ができなくても、それで問題はないんじゃないだろうかと思う。もっと正確に言えば、それで自然なのではないかということだ。

分数の計算とはいっても、原理的なものではなく、ここで必要なのは手続き的知識だ。つまり、分数のわり算では「ひっくり返して掛ける」という手続きが必要だし、分母の違う分数の足し算では「通分してから足す」という手続きを覚えていることが必要だ。もし、こうした手続きを小学校で習って以来、一度も使ったことがなければ、忘れていてもあまり不思議はないし、それが致命的なことだとは思えないんだ。仮に「日本の首相の名前は?」という質問をしたら、やはり5%くらいの大学生は答えられないだろうし、それがそんなに重要なことだとは思えない。

——いやでも「分数ができない大学生」というフレーズはセンセーショナルだよ。

確かにね。しかし本当なら「5%以下の大学生は分数ができない」というべきだ。

——それではキャッチフレーズにならない。

「20人に1人の大学生は分数ができない」くらいまでなら許容してもいい。

——インパクトに欠けるなあ。

要は、「分数のできない大学生はめったにいないけど、まれにいる」ということなのだ。

——あなたはテレビ番組の制作者には絶対なれないな。