- 作者: 森博嗣
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2001/04
- メディア: 新書
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森博嗣『臨機応答・変問自在』(集英社新書、2001、680円+)を読む。
著者はミステリー作家で、N国立大学工学部の助教授。この本はミステリーではない。大学の授業で学生に書いてもらった質問とその回答を、ピックアップして一冊の本にしたものだ。著者は、毎時間、学生に質問を書かせ(つまり質問書方式だ)、それをすべてワープロ打ちして、回答を付けてプリントにして学生に配布している(正統派質問書方式だ)。それはすでに数万にのぼっているという。その中から、面白いものを独断で選んで、作ったのがこの本だ。
もちろん、授業の内容に関係する質問が多いのだろうが、本にするに当たっては、むしろ授業内容外のことを質問したものを取り上げている。そして、それがやたら面白いのだ。たとえば、私のお気に入りは、こんな具合。
Q 電話はどうして声が聞こえるのですか?
★ 聞こえるのは人間。ここは子供相談室ですか? 本気で疑問に思っているなら調べましょう。
Q ピラミッドパワーってどんなパワーですか?
★ 人間の思い込みの力。
Q 遠近両用コンタクトレンズがあると聞いたんですが、どういう光の屈折のしかたをするんですか? 凄く不思議です。
★ 授業で話しました。寝ていたね。
Q 部屋をうまく換気する方法はないでしょうか?
★ ある。
Q 身体にスプーンなどの鉄がくっつく人がいますが何故ですか?
★ 嘘つきだから。
Q 先生、生きてて何になるんですか?
★ それを知るために生きています。何にもならないことを認識するのが学問かもしれない。数学は数学の中で足りているわけで、何の役に立つのかと問うことは大切だが、役に立たないことで、自身や学問を否定することは人間の存在を否定することに等しい。
(別ページの回答)
★ 「わからない。それを知りたいから一応生きている」というのが答えです。勉強して何になるのか知りたかったら勉強するしかない。何にも知りたくなければ、死んでいるのと同じ。君は何故大学にいるのですか? 何かを知るためにきたのではないですか? そうでなければ、授業料が無駄だよね。
Q 酒を飲むと、何故、次の日に頭が痛くなるんですか?
★ いろいろ悪いことをしたから、反省しているのではないでしょうか。
Q 五月病で勉強する気が起こらないときは先生はどうしましたか? 勉強する気になるために何かしてますか?
★ 嫌々でも、勉強すると良いと思う。やらなければ、やる気は出ません。
Q 人前で自己PRを言うとき、どのような方法で、どのような内容を発表すれば、より良いものになりますか?
★ PRできる点が本当にあれば簡単でしょう。
Q 自分が満足できるのだったら授業をさぼって遊びにいくというのは、良いことだと思っていますが、教える側からするどんなものでしょうか?
★ まったく気になりません。教える側などという立場は存在しない。「教える」という行為がこの世に存在するとは思えない。教えてもらったようにイメージしていても、それは「学んだ」だけです。森(教官)は、みんなが購入した教科書と同じ存在。君が遊びにいったら、教科書は怒りますか?
Q 先生は授業中に「どこを調べればその答えが書いてあるかさえ知っていれば良い」というようなことを話していましたが、それはつまり、先生のテストは、持ち込み可ということですか?
★ 当たり前の質問をしないように。人生には、テキストもノートも助っ人も、何でも持ち込めます。
Q 「つまらない授業ですね」と言いながら、何故、笑顔で授業を進めるのですか?
★ 仕事だからです。お金で雇われている。ボランティアではない。好きでしているわけではありません。学生は好きこのんでお金を払って大学に来ているのに、どうして嬉しそうに授業を受けないのでしょう?
もっともっと面白い質問・回答があるのだが、長くなりすぎたので最後にひとつだけ。
Q 質問がないときは何を質問すればいいのですか?
★ そういう人生を送ってください。
「質問書方式」の授業をしている大学教員には、必読の一冊。