KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

eLearningを成功させるためのヒント/教師文化を打ち壊す

2日間の教育工学会大会が終わって、研究の打ち合わせを兼ねて、霧島温泉に来ている。

研究発表を聞いてたくさんのヒントを得たので、自分の視点でまとめておこう。

WBT、eLearning、遠隔学習の発表がたくさんあった。それを成功させるポイントは、ひとつは教材の設計、もうひとつはコミュニケーションの取り方にある。

たとえばコミュニケーションのルートを保証するために掲示板を置くけれども、それだけではだめで、それをどう運用しているかということが決定的。たとえば、大福帳とBBSと進度表を統合したようなページを作り、それをWeb教材と有機的にリンクするようなイメージが考えられる。

教材の設計では、その教材がさまざまな文脈の中で単体で使われることを想定したポータビリティが重要。入り口で、どのようなレディネスを持った人を対象にして、これが終わるとどうなるかというターゲットを明示しておくこと。出口では、きちんとしたテストを行い、コースが目的としてものがちゃんと身に付いたのかどうかを学習者自身に確認させること。ID(教授デザイン)では当たり前のことだけど。

出口のテストでは、パフォーマンスアセスメントの考え方が役に立つ。○×問題や選択問題ではなく、問題を解くプロセスを明示させたような記述式回答。この特色は、日常的な文脈での問題設定、複数の解決アプローチ、概念獲得のレベルの特定というところにある。これをどうWeb上で実現可能なものにしていくのか。

eLearningの過程では必ずクイズのような小テストが入ってくる。小テストひとつ取り上げても、即時フィードバック、強化というような行動主義的なやり方はまっとうすぎたのではないかと反省してみる。まっとうだからこそ今でも強力な原理なのではあるけれども、もう少し「裏の」やり方を考えてみてもいいのではないかということ。たとえば、クイズに正解すれば「おめでとう」のような強化が行われるけれども、そうではなくて、同じような例を出してさらに強化するというような強化の仕方を考える。あるいは、正解へのご褒美としてさらに問題をあげるというような。さらには、自分で答え合わせをするという方がいい場合もあるだろう。強化というのは、その結果標的行動が増えるかどうかで決まるのだから、単純に「おめでとう」だけではないのだ。

大谷さんは、学校に導入されたもので、黒板のように一斉授業にフィットするものは受け入れられた一方、CAIのような一斉授業にフィットしないもの(個別化)は徐々に排除されたということを指摘して、学校文化の強固なことを示した。

鈴木さんによれば、そんなことをすでに言われていることで、たとえば教育番組というのは、「予定調和的に教師がすべてをコントロールする」という教室文化を破壊しようとして学級に送り込まれたのだという(水越さんの文献を参照)。つまり、教師は初めてみる番組に対して、生徒と同じ地点から考えなくてはならなかった。それを教師はいやがった。その結果として、NHKに「あらかじめ番組の内容を教えろ」というような要望が来たり、あるいはビデオテープにとっておいて一度内容を検討して「教師にとって安全な」番組だけを利用するようになったのだ。

そこまでは知っておくべき基本事項。

次は、それではどのようにしてその強固な教師文化を打ち壊していくかということだ。「総合学習」というものも、実は背後に教師文化を変えていくという使命を担っている。それを教師は直感的に感じ取って、それに抵抗している。つまり、総合学習をどうやったらいいのかわからないという抵抗だ。総合学習はそもそも予定調和的な運営を許さない。やってみなくてはわからないところがあり、それこそが総合学習が特色なのだ。しかし、それをだすことは教師にとっては怖いことだ。コントロールできないから。そう考えると、総合学習が早晩、その特色を失い、教師文化にフィットするようにその性格を変えられていくだろうということが予想できる。