KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

C. ウィリッグ『心理学のための質的研究法入門』

心理学のための質的研究法入門―創造的な探求に向けて

心理学のための質的研究法入門―創造的な探求に向けて

  • 作者: カーラウィリッグ,Carla Willig,上淵寿,小松孝至,大家まゆみ
  • 出版社/メーカー: 培風館
  • 発売日: 2003/09
  • メディア: 単行本
  • 購入: 1人 クリック: 1回
  • この商品を含むブログ (3件) を見る

しかし、すべての研究方法がすべての方法論と矛盾せずに用いられるわけではない。方法を決めるには、若干の選択の余地があるかもしれないが、研究者がどの認識論や方法論にコミットするかによって、どの方法を使うかが決まるのである。たとえば、社会構成主義の方法論は、母集団における変数の測定をデザインした方法とは相性がよくない。これは、社会構成主義が、「心理的変数』のような構成概念を問題視するからである。

認識論上の3つの問い

  • 1. その方法論はどのような知識を生み出そうとしているのか?
  • 2. その方法論は世界についてどのように仮定するのか? 
  • 3. その方法論は研究プロセスの仲での研究者の役割をどのように概念化するのか?

質的研究プロジェクトの大半はリサーチ・クエスチョンで始まる。リサーチ・クエスチョンは仮説とは異なる。仮説は、既存の理論から引き出される主張である。実証的な証拠と対照して試されるものである。仮説は棄却されるか、保持されるかのどちらかである。リサーチ・クエスチョンは、これとは対照的に、オープンエンドなものである。すなわち、単純に「はい」や「いいえ」で答えられるものではない。リサーチ・クエスチョンからは詳細な記述を与えられるような答えが必要である。また、可能であれば、現象の説明も必要である。/質的なリサーチ・クエスチョンは研究者が探求したいと思うプロセス、対象、存在を決定する。何を発見できるかを予測するものではなく、ある方向を指し示すものだ。よい質的リサーチ・クエスチョンはプロセス指向的である。

理論的サンプリングと負のケースの分析  生み出した理論を絶えず拡張し、修正し続けなければならない。こうするためには、新しい洞察を生み出す可能性のある事例だけではなく、理論に適合しないケースも扱う必要がある。

読者を共鳴させる  確実に読者の共感性を刺激するように資料を提示すべきである。そうすれば、読者は、研究によって主題に対する理解や評価が明確になり、さらにそれが拡張されたと、感じることができるだろう。

グラウンデッド・セオリー、解釈学的現象学、ケース研究、言説心理学、フーコー派言説分析、メモリーワークの6つの方法論について紹介する(この6つの中では、最初の3つが私にとっては重要だ)。それらを上記引用のなかの「認識論上の3つの問い」によって切り分けているためにすっきりとした俯瞰を得ることができる。質的研究法をきちんと捉えるには、認識論の転換が必須なのだ。デカルトパラダイムにどっぷりと浸かってきた身にはやっかいだな。

巻末には、質的研究法を使った(学部3年生が書いた)論文の例が3つ載っている。ウィリッグは「すべて質が高い」と評価し、訳者代表は「その質については3本すべてが必ずしも高いとはいいがたい」と評価する。その不一致が、ある意味ナイスである。