KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

石黒宏昭編『AV機器をもってフィールドへ』

私自身も自分の授業やワークショップなどをビデオで撮っておくことがあるが、肝心なのはその分析であって、それを考えると気が重くなる。この本は研究者たちがどのような意図を持ってビデオやテープを回し、どのような工夫を凝らしてそれを分析しているかが記述されている。

ビデオの集積から、細かい日常的な現象の中にある秩序を発見することが重要であり、そうしたデータが蓄積されていることが学問の成熟の度合いを示すという。分析とは、対象に対して普遍的な記述を与えることであり、それが理論構築につながっていく。ここでの理論は、大きな理論ではなく、限定された状況や場であっても、そこでうまく働く(理解、説明、予測に寄与するような)ような概念である。

ここでもやはり文脈が重要。2つの文脈があり、ひとつは発話や行為のやりとりそのものが作り出すような相互反映性(reflexivity)。もうひとつは、背景知識(ethnographic context)である。この2種類の文脈こそがビデオをとる意味になるのではないだろうか。もちろん、何回手を挙げたかというような頻度を取ることもできるのであるが、そうではなく、その行為がどのような背景と文脈の中で起こったかということを分析する(普遍的な記述を与える)ことが重要なのだ。