- 作者: 山本力,鶴田和美
- 出版社/メーカー: 北大路書房
- 発売日: 2001/09
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (3件) を見る
このように発表や研究という目的を強く意識すると、援助関係ではさまざまな副作用が生じやすい。その弊害が起こる危険性を排除するために、学会では終結事例を発表するというやり方を取る。
なぜ単一事例から一般化を推し進めることができるのか。この疑問に手短に答えるなら、事例研究は理論的命題へと一般化するのであって、すべての人たちに一般化しようとするものではない。この意味において、ケースは母集団の一つのサンプルではない。研究者の目標は理論的命題へと一般化することである。
臨床心理学研究のデータ分析の方法論は、記述文章からコンテクスト(文脈)を読み取り、そこで生じている事柄をストーリィ(物語)として理解し、その意味を読み解く(解釈)作業となる。
臨床の実践においてそうであるように、被験者は1名でよいのだ、平均値も分散も必須要件ではないのだ、くり返しデータはいらない。個人や単一集団の独自性や特有性、個の持つ豊饒を分析したい。しかも個々の要因分析ではなく、全体構造を捉えたい。これができれば、個別事例について長期間にわたる膨大な情報を直観を駆使しながら分析していく(そうすることでしか分析できなかった)従来の、いわゆる事例研究法(Allport, 1942)の呪縛から、個性記述的研究を開放できる。
質の高い事例報告・研究を可能とするためには、「実験研究→大量調査項目データ分析→事例研究」の順でトレーニングを積むことが望ましいと考えている。
事例研究は臨床心理学の中心的な方法であり、長い歴史を持っているわけだが、それでもその進め方、まとめ方、論文の書き方にはなおさまざまな課題があることがわかる。権威のあるジャーナルでは、事例研究の生の形ではなかなか論文として載りにくいこと、その発表の場として「紀要」があるという構造などが見えて参考になった。
クライエントとセラピストによる事例研究は、ちょうど、教員と学習者による1クラス事例研究として対応づけられるという感触を持った。