理系のための口頭発表術―聴衆を魅了する20の原則 (ブルーバックス)
- 作者: R.H.R.アンホルト,鈴木炎,I.S.リー
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/01/22
- メディア: 新書
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訳者の前書きからして、切れ味鋭い。
にもかかわらず、従来、とくに日本の大学では、口頭発表のトレーニングが軽視されてきた。その一因は、コミュニケーションを見下し、孤高の学者を気取る大学人の怠慢と言えば言いすぎだろうか。難解であればあるほど、ありがたがる国民性とも無縁ではあるまい。だが結局、理解できぬものは無意味なのだ。
この本は、院生ゼミ生の発表のための教科書に指定しよう。
この本のすばらしさは、発表に際してどのようにふるまえばよいかということだけでなく、内容をどのように組み立てればおもしろく、魅力的なものになるかというところまで踏み込んでいるところだ。キーワードは「物語」である。理系なのに。理系だからというべきか。
すべての発表は、次の3つの部分からなる。
(1)導入部 ここでは〈背景と展望〉を述べ、発表の内容を理解するのに必要な予備知識を、前もって、聴衆に与えておく。
(2)本題 ふつうは最も長い。聴衆に新たな情報を提供する核心部分である。場合によっては、さらに別々の小さな部分に分割する、ということも多い。だがその場合でも、相互の関連を、しっかりと保つことが大事だ。
(3)結論 発表内容を一言でまとめあげる。明瞭な〈お土産(お持ち帰り)メッセージ〉---すなわち、発表が終わって聴衆が帰宅したあとも、彼らの心にずっと残るような一言---を放つのである。
大ざっぱに言えば、パワーポイントのスライド1枚につき、だいたい1分の発表時間を割り当てればよい。
「セミナーへ行くときには、〈物語(ストーリー)〉を聴きたいと思っているんだ」同僚の友人が発したこの一言は、科学発表の本質を、うまく突いている。事実をただ集めて要約することと、刺激に満ちたおもしろい物語を語ることの間には、紛れもない違いがある。
だが、いずれにせよ、科学発表の結論は、常に、ベートーヴェンの交響曲の最終和音のごとく、強固で決定的なものでなければならない。
表を避けること。これは大切である。
ポスター・セッションの発表者は、高級レストランのウェイターのごとくふるまうべきなのである。必要なとき、そこにいるのはよいけれども、10分おきに、お味はいかがですか、などと聞きにきて、会話に水を差し、客を怒らせてはならない。