KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

指導者研修での講演

 大阪府立青年の家が主催する指導者研修で話をしてきた。一泊二日のプログラムで、40人ほどが参加。1日目は夕方から、大阪女子大の藤田正さんがリーダーシップの話(PM理論)があり、夕食をはさんで私の持ち時間が来る。

 参加者の7割ほどが小中学校の教師で、話し始める前に手を挙げてもらってそれを確認した後、私は覚悟を決めて(←大げさ)用意してきた話題を提示した。それは、学級崩壊、犯罪、いじめを具体例とした学校の諸問題は、何が原因になっているか、そしてその対処法はどうすればいいかというものだ。私の仕事は今私が考えていることを話すだけだ。しかし、私のオリジナルの考えはどこにもない。ただ、私が読んだり聞いたりしたことを材料として、それを私のフィルタを通したものをわかりやすく説明したに過ぎない。それは次の3点だ。

  • 子供の問題---動機や心のない行動、「プログラム駆動症候群」という見方
  • 教師の問題---学校の教師の役割は「金八先生」ではない、逆に金八先生が状況を悪くしている
  • 対処法---先生はカウンセラーにならないこと、わかる授業のデザインとシステムの構築が仕事、行動制御の方法を学ぶこと

 これらの話は今までにこの日記の中でも折に触れ、書いてきたことだ。私の興味は、それが現場の先生に対してどう受け取られるかということにあった。だから、持ち時間一時間半のうち、話は一時間だけにして、質問時間に30分を当てた。果たして、質問はたくさん出た(おそらく10以上の質問を受け付けたと思う)。代表的なものでは、

  • 自分の学級も荒れかけていたが、なんとか対処して持ち直した。今日の話をきいてみると、まさに話されたことを実行していたことに気付いた。
  • 話はシンプルで力強いので納得したが、いざ自分の現場に戻るともやもやしたものが残りそうだ。
  • 納得できない。「心の教育」をどう考えているのか。「生きる力」は?

 といったところだ。質問がたくさん出たということで、私は満足した。肯定的なものも懐疑的なものも含めて、私の話が何らかの影響を聞き手に及ぼしたということだから。実は私も正解は知らない。ましてや小中学校の現場を持っているわけでもない。しかし、現場の人間ではないからといってアイデアが出せないわけではない。逆に現場に拘泥しない解決案を出せる確率が高い。私はそれを実行するだけだ。確かに、シンプルでわかりやすいことが必ずしも正しいとは限らない。しかし、もし同じ説明力であれば、よりシンプルな方を採用するというのが科学のルールである。

 このあとで知ったのだが、大阪の一部の教師の間では河合準雄の影響力が甚大であるそうだ。「援助交際は「魂」に悪い」というような論説を提示している人だ。なるほど、これは教師にはウケがいいだろうことは容易に想像できる。しかし、こうした言説は「魂」という実体のないもの、操作のできないもの、定義できないものを使用している時点で、科学でもないし、有効な処方や解決策を導き出すものでもない。単なる個人的な信念というべきものだ。おそらく金八先生も「なぜ援助交際が悪いの?」と聞かれたら、こう答えるだろう。「それはお前の魂をだめにしちゃうんだよ」と。そして生徒がその信念を受け入れる限り、それは有効だ。なぜ受け入れるのかといえば、それは相手が金八先生だからだ。したがって、学校の先生は金八先生にあこがれ、それになりたいと思う。なぜならば自分の言うことが生徒に受け入れられるからだ。「魂に悪い」といってうなづいてくれるからだ。しかし「魂に悪い」といってうなづいてくれる生徒は、おそらくいない。

 研修二日目は、大阪府立看護大学の山田冨美雄さんを中心としたストレス・マネジメントの実習。自律訓練法や筋弛緩法を、養護教諭が小学校の選択科目の中で取り入れて実践している例がすでにある。こうした実践によって、いじめる子の行動の改善やいじめられっ子の耐性を強くすることなどが期待できる。有望な試みだと思う。