KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

大学入試の悪問

――おや、月曜日なのに休日版かい?

実は大学の創立記念日なんだ。大学祭の最終日でもある。

昨日(5/30)、TBSの報道特集を見たんだけどね、大学入試の難問奇問について取り上げていた。

——なんだ少子化で、入試問題は易しくなっているのかと思えば、相変わらず悪問が多いんだ。

そう。その原因は:

  • 試験問題にできる範囲は高校の教科書に記載されていることという限定がある(いろんな出版社のどれかひとつの教科書にあればいいらしい)
  • みんなが知っている問題を出すと点数に差がつかない
  • したがって、教科書に載っている図や脚注などの本当に細かいところから出題するような悪問がなくならない。

と、こういうことらしい。

——大学入試についての君の意見は?

いざ自分が試験をする方になると、「よりよい試験制度にしたい」と思っていろいろ試みるわけだけどね。それで、今考えていることは、「センター試験だけで決めたい」ということだね。

——え? それは大学独自の個別試験も面接も小論文も推薦もやらないということ? それはまた別の意味で異端だなあ。

そう。私立大学でもセンター試験を採用するところが増えている。センター試験はしばしば諸悪の根元的な言い方をされるけれど、確認しておきたいのは、試験問題として入試センター以上に良い問題を作っているところはないんだよ。その理由は明らかだ。人手と時間をかけ、問題と正解を公表し、その後の分析もしっかりとやってフィードバックしているからだ。

——番組の中でTOEICが試験問題の分析をやって悪問を排除しているということが紹介されていた。

あのね、TOEICのような資格認定会社が問題分析をするのは当たり前なの。それで商売をしているわけだから。もちろん入試センターでもそれ以上の分析をやっている。番組ではそれを知らずか、取り上げられていなかったけどね。試験問題を分析する技法は心理学を専攻した人なら誰でもやっているはずだが、ただ番組を作っている人がそれを知らないだけなんだな。

——大学独自に作る問題はどう?

だめ。高校の現場を知らない大学の教員が作るから、悪問ができやすいというのは番組の指摘通りだと思う。まあ、入学試験料で財源をまかなっている大学では自前の入試をせざるを得ないという事情はある。しかし、入試料でもうけるなんていうのは受験生から言わせれば「ふざけんな」だね。

——推薦も取らないとなると、推薦で取る人数をもっと増やしてもいいよ、という文部省の意向とは逆になるね。

推薦枠を増やせば、勉強をしてこない学生が増えるだけだ。センター試験で合格する実力のある学生ならば、はじめからそれで来るだろう。

——しかし、面接をすれば人柄をじっくり吟味することができる。

幻想だね。社会心理学にこんな研究がある。レポートにそれを作成した人の顔写真をつけて採点させる。レポートの内容が良かったときは、写真が美人でも不美人でも良い点数がつく。しかし、レポートの内容が悪いときには、不美人の写真をつけたときに限ってさらに点数が悪くなる。それほど我々は見た目に惑わされやすいのだ。ましてや十分程度の面接では、人柄を知る効能よりも、見た目に惑わされる悪影響の方が大きいと断言できる。まあ、見た目で選びたいというなら話は別だ。

——小論文試験はどうだ。

採点時間がかかり、信頼性が低い。採点者によってまったく違った点数がつけられることがしばしばある。つまり信頼性がない。さらに「泣かせる一言をいれよ」などの小手先の小論文対策を受けている受験生が増えて、思考力を問うという本来の意味がなくなった。マークシート方式でも思考力を試す問題はいくらでも作れる。つまりそれが良い問題ということ。

——それでセンター試験一本ということになるわけか。しかし、一点の差で何十人という受験生が落ちるという現実は改善できないか。

一点の差で合否が分かれる人数が増えるのは、受験生全体の人数が増えれば当然のことだ。つまりボーダーライン付近の点数を取った人は50%の確率で合否が決まると言うことで、なんら矛盾はない。合格する確率を少しでも上げたいならば、もっと勉強すればいいだけの話だ。できれば、センター試験を年間に複数回実施すれば、受験生のプレッシャーは少なくなると思う。

——しかし、君の尊敬する西澤潤一さん(岩手県立大学長)はセンター試験を使わないと言っていたね。

うん。そこは納得がいかないんだけど、西澤さんはマークシートが徹底的に嫌いなんだそうだ。聞いた話では岩手県立大ではICU国際基督教大学)方式の特色ある入試をしているようだ。

——ICU方式というのは?

非常に特色ある入試問題だ。「学習能力」を高校の教科の枠組みにとらわれない形式で試している。興味があれば大学に資料を請求してみるといい。こういう入試だからICUを選んだという人はけっこうたくさんいるそうだ。