KogoLab Research & Review

遊ぶように生きる。Vivi kiel Ludi.

修正GTAの木下康仁先生の話

昨日に引き続き、パーソナリティ心理学会に潜って、修正グラウンデッドアプローチの提唱者、木下先生の話を聞く。めちゃくちゃまっとうな話で感動したのでまとめておこう。

  • 質的データというべきものは、ディテールが豊富であることが条件だ。質的データと向き合い何度も対話し、解釈することで概念と概念の関係を形作ってゆく。このデータ自身に価値があるわけではなく、概念ができたあとには、これを裏で支えるものになる。この概念に説明力と予測力があるかどうかということで評価される。
  • KJ法GTAとの違い。KJ法はより一般的な方法だ。GTAは人間と人間関係に焦点化している。GTAは人間行動を説明・予測することが特徴だ。ただデータを集めるのではなく、予測に役立つ概念を作ることが目的だ。
  • GTAの特徴は、データとの関わり方にある。データをとても丁寧に、時間をかけて扱うということ。同時に、その方法をとることによる限界があることもわかっている。だけれども、一般化することは目標の1つだ。
  • フィールドに入り、厚みのある記述をすることは大切だが、そのためには、書く人が対象となるフィールド内の日常ルーチンがすべて理解できるようになってから書かなくてはいけない。ただ記録を取ればいいというものではない。

私の質問:データとの生き生きとした対話が大切なことはわかったが、たかだか10ページくらいのペーパーにまとめてしまうと、それは読者に伝わりにくいのではないか。何か工夫はありますか?

  • 木下先生の回答:それはいまだに解決できていない。査読レベルで言えば、査読者に概念化に使ったすべてのワークシートを見てもらうなどができるだろう。しかし、基本的には、ペーパーで提示される概念の重要性に対応した分量というものがあるのだと思う。つまり、重要な概念を提示するなら10ページではすまないのであって、逆にその分量で提示された概念は軽くあしらわれてしまうという逆効果があるかも知れない。

GTAについては、はせぴぃ先生のまとめが参考になります。

木下先生の本についてのレビューは道田先生がこちらに書いています。

『グラウンデッド・セオリー・アプローチ─質的実証研究の再生』

『グラウンデッド・セオリー・アプローチの実践─質的研究への誘い』

(追記)修正版GTAは、どこが修正なのかということは、シンポジウムの中では話されませんでしたが、ハンドアウト資料によると次のような感じです。

ストラウスとグレイザーでは、一次データをコード化(カテゴライズ)して、さらにそれをコード化して、さらにそれをコード化するというように、階層的に概念化していく。一方、木下氏の修正版では、一次データを丁寧に見て、そこから直接概念を作っていくみたいです。