KogoLab Research & Review

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【本】ラスムッセン『心地よさを求めて: アドラー心理学からみる感情論』(11)【最終回】

2023年12月26日(火)

ラスムッセン(今井康博訳)『心地よさを求めて: アドラー心理学からみる感情論』(川島書店, 2022)の13章のまとめ。これで終わり。

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第6部 治療への用途
第13章 感情面の再教育—臨床的方略の一つとして

アドラーの理論の特徴は有用性を強調していることである。人が何かをするのは適応という目的のためであり、したがって人の行為の全てには理由がある。しかし、人は自分の行為の目的をわかっていないことが多い。肉体的な痛みに目的とメリットがあるように、不快で痛みを伴う感情にも目的がある。心理的に傷ついているときは、その痛みだけを取り除こうとしても意味はない。

クライエントが治療を求めにくるのは自分の私的論理が気に入らないためではない。自分の感情、たとえば不安、気まずさ、自分への軽蔑などの苦しみがあるから治療を受けにくる。こうした感情面での痛みが弱まると治療から離れていく。

ドライカースは、感情は個人がライフスタイルの目標達成に向けて持てる全てを「結集する」ことの一部だとした(1971)。クライエントの再教育への努力に役立つような治療法略は以下の通り。

ステージ1:ライフスタイル分析と解釈

セラピストがクライエントは何を求めているのか、どのような場合に人生を心地よく感じるのか、さらにクライエントが良い結果を得られるよう自分が力を尽くしていると確信したとき、自分が理解されたと感じ、治療抵抗の可能性が弱まる。一方で、クライエントが自分の価値や重要性を確認できる成果を得るのに人生で起きる必要があると思っていることは、誤った信念である。それは共同体感覚の欠如とライフタスクを適切に捉えていないことが原因である。

ステージ2:再教育

クライエントが、感情が単に生化学的反応の産物ではなく、人生の課題に向き合う手助けをする手段であることを学ぶ。たとえば、以下のような説明。

・不安:この適応的感情は、周囲にありそうな脅威に対して気を配らせ続ける。自分が何に脅威を感じているのかを意識し、それを解消するための好ましい反応をすることが大事。

・怒り:この感情は、自分が手に入れて当然と思う結果を拒むものを取り除くために使われる。もし人生で欲しいものを全て手に入れたら、怒る必要はない。

・憂うつ:もしこの感情がなかったら、人は努力の甲斐がないことを繰り返しし続けるだろう。憂うつに沈む人は絶望的な状況から退くことができる。

このようにクライエントの感情表現を私的論理や誤った信念と結びつけることができる。

感情は3つの重要な目的を持っている。

(1) 個人的なフィードバック:感情はそれを感じた時点の自分の人生の状態を知らせてくれる。私たちはそれをどう感じるかによって、人生を判断している。

(2) 対人コミュニケーション:感情は人が感じていることと、それに基づく潜在的な意図を他人に伝える役目を持つ。言葉ではすぐに取り合ってもらえなくても、感情として表に出すと他人がすぐに反応してくれる。

(3) 行動への刺激:感情は行動を引き出す動力源となる。ドライカースは「感情は内燃機関の蒸気」といった。

感情を観察するためのフォーム:

(1) 自分の感情体験を取り上げ、その強さを自覚的苦痛単位(Subjective Units of Distress, SUD)に照らして評価する。

(2) 問題の感情を感じた状況で守られなかった自分の私的論理について記録する。

(3) 感情に促されて取った、または取る可能性のある行動に焦点を当てる。

(4) 最後に、クライエントは感じられるプラスを得るためのそれまでとは違う方法を、自分のいる状況の現実と共同体感覚のレベルに照らして考える。

自分と他人との関係を方向づけする必要があるとクライエントが同意した場合、感情面の再構築プログラムが導入される。クライエントが治療を受けようと思う動機の奥底に横たわる社会的に無用で、自己執着的な方略に代えて、感じられるプラスをもたらすための新しいやり方を明確に示すことだ。