2024年7月5日(金)
10月11日(金)から盛岡で開かれる日本アドラー心理学会学術集会の演題発表にエントリーした。去年に続き2回目。発表は毎年続けていきたい。考えることの原動力になりそうな気がするから。
エントリー内容は以下の通り。
■演題:行動経済学とアドラー心理学における感情の取り扱いの比較
■背景:アドラー心理学における感情の位置づけは、基本前提として目的論を採用することによってかなり特殊なものになっている。つまり、感情は、人が意識的であれ無意識であれ、なんらかの目的のために発動するものとして捉える。一方、20世紀後半から進展した認知心理学とその応用である行動経済学では、感情を、遅く注意の必要な合理的な思考と対比させて、速い反応を引き起こすための自動的で努力や注意のいらないシステムとして捉えている。そして感情はしばしば合理的な思考にバイアスをかけ、支配することがあると考えている。■目的と方法:ラスムッセン(今井康博訳)『心地よさを求めて:アドラー心理学からみる感情論』(2022, 川島書店)とカーネマン(村井章子訳)『ファスト&スロー:あなたの意思はどのように決まるか?』(2014, ハヤカワ文庫)における感情のモデルを対比させることによって、アドラー心理学での感情の捉え方の独自性を明らかにする。■結果:カーネマンのモデルでは、出来事を速く自動的な思考(システム1)が捉え、そのあと遅く論理的な思考(システム2)が働くとする。システム1では感情ヒューリスティクス、つまり好き嫌いだけで判断し、さらに論理的思考にバイアスをかけるとする。一方、ラスムッセンのZ因子モデルでは、出来事を認知的評価して、必要ならうながしの感情(不安や怒りなど)を起動し、それが反応としての行動を生み、その結果うらづけの感情(喜びや充足感など)を得て安定する。人は常にうらづけの感情を求めている。■考察:行動経済学の教訓は、いったん感情を切り離し、合理的思考を働かせよとする。対して、アドラー心理学の教訓は、感情を制御するのではなく、感情を使った理由にさかのぼり、そしてそれについて考えよ、というものになるだろう。両者には感情の扱い方について大きな違いがある。